これまでslp のBARドメインが膜変形能を持つことを示してきたが、その光遺伝学による操作が困難な理由として、in vitro、 in vivo 共に脂質膜と強く相互作用してしまうことが理由と考えられた。そこで今年度は弱く形質膜局在を示すようなBARドメインタンパク質を同定し、光遺伝学タグを付加し形質膜局在を操作することを試みた。細胞性粘菌のBARドメインタンパク質のうち解析のなされていないDDB_G0284997、 DDB_G0271812、 DDB_G0288895の3遺伝子について全長およびBAR ドメインのみの蛍光タグを作成し細胞内局在を観察した。DDB_G0271812はDDB_G0288895全長およびBAR ドメインは共に形質膜局在を示したが、DDB_G0284997の全長およびBAR ドメインは、形質膜局在せずに細胞質に局在していた。いずれもslp-BARドメイン発現細胞のような表現型は得られなかった。次にDDB_G0284997の形質膜局在を光遺伝学で強制誘導できるようタグを付加し、表現型が誘導できるか試みた。その結果、青色光照射により一過的なBARドメインの形質膜局在誘導に成功したが、膜変形や基質接着面のアクチン波に対する表現型の誘導は起きなかった。 研究期間全体として、光遺伝学手法を用いて脂質膜変形を時空間的に操作する実験系は確立できなかったが、BARドメインタンパク質の有無により膜の形状変化を誘導することは実現できた。これを従来の再構成実験と組み合わせることで、脂質膜上で行われる生体反応をより本来の細胞に近い形で再現できることが期待される。
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