本挑戦的萌芽研究:TRIM-NHL蛋白質による栄養応答制御機構の解析では、前年にnos-1遺伝子が頭部神経系群で発現し、神経前駆細胞の貧栄養状態に応答した静止期維持に寄与する知見を得ていた。そこで、nos-1遺伝子がどの神経細胞に発現するか同定することを試みた。まず、線虫の一部の感覚神経群に特異的に取り込まれる蛍光色素DiQを用いて、DiQ陽性細胞とnos-1レポーター遺伝子発現細胞が部分的にオーバーラップすることから、nos-1は少なくとも一部の感覚神経に発現することが明らかとなった。次にどの感覚神経細胞に発現するかさらに絞り込むため、nos-1遺伝子が発現すると予測される感覚神経細胞特異的レポーター遺伝子を作成し、nos-1レポーター遺伝子と発現部位が重複するか調べた。その結果、少なくともAWBとADL感覚神経細胞でnos-1レポーター遺伝子が発現することが認められた。AWBとADLはともにオクタノールなどの忌避物質の回避行動に関与することが報告されていることから、nos-1とnhl-2は、成長に不適切な環境を感覚神経でセンシングし、神経などの前駆細胞の活性化を制御する機能を持つ可能性が示唆された。 また、貧栄養条件下で、インスリンリガンドをコードする遺伝子の発現が、野生型と比較してnhl-2;nos-1二重変異体で亢進することが認められた。そこで、このインスリン遺伝子とnhl-2、nos-1の三重変異体を作成したところ、貧栄養条件下にてnhl-2;nos-1二重変異体で観察される神経前駆細胞の静止期からの活性化が顕著に抑制されることを見出した。このインスリン遺伝子は摂食によって誘導されることが既に報告されている。よって、nhl-2とnos-1は、このインスリン遺伝子の発現を貧栄養条件下で抑制し、神経前駆細胞の活性化を抑制する可能性が示唆された。
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