研究課題
緊縮応答は、栄養飢餓応答のシステムとして大腸菌を用いた研究により約50年前に発見された。その後の研究により、この応答は、栄養飢餓だけでなく、病原性/抗生物質耐性/バイオフィルム形成/光合成など多彩な機能を調節する細菌に普遍的なシステムであることがわかり、現在も活発に研究が行われている。近年のゲノム解析の進展により、緊縮応答で中心的な働きをする核酸分子ppGppの合成と分解を担う酵素遺伝子が、植物や後生動物から発見された。一方、後生動物から見つかった遺伝子は、ppGppの分解ドメインだけからなる小型のものであり、それ以外にppGppに関連した遺伝子(例えばppGpp合成酵素遺伝子)は見つからない。また、50年来、様々な手法により動物細胞からのppGpp検出が試みられてきたが、成功した報告はこれまでになかった。これらのことから、動物細胞においては、バクテリア様の緊縮応答は存在しないと考えられてきた。本研究では、申請者らは、LC-ESI-MS/MSを用いたppGpp高感度定量系を駆使し、動物細胞からのppGppの検出を試みるとともに、後生動物を用いて緊縮応答の存在を実証することを目的としている。その結果、これまでに、ショウジョウバエの幼虫・さなぎ・成虫の各ステージにおいて一定量のppGppが存在する可能性を示すデータを得た。また、同様の測定法により、酵母も一定量のppGppを持つ可能性のあることがわかった。
2: おおむね順調に進展している
本研究費申請時のショウジョウバエからのppGpp検出系では、定性的な解析は行えるものの、定量解析には不向きであることがわかった。そこで検出系の前処理のステップを再検討し、核酸画分の効率良い精製法を検討し直した。いくつかの試行錯誤を経て、これまでよりも夾雑物の混入の少ない前処理法を確立できた。この方法により、これまでのppGppの検出結果の検証を行うこともできた。また、検出されたppGppがショウジョウバエに共生しているバクテリア由来の可能性を排除するために、無菌条件下で生育したショウジョウバエからのppGpp検出を試みた。その結果、一定量のppGppが検出され、この可能性を排除させることができた。一方で、過去に報告された大腸菌のRelA遺伝子を発現するショウジョウバエ内のppGpp量は、通常の野生型のそれと大きく変わらないということもわかった。一方で、ショウジョウバエ以外の真核生物・動物種では酵母以外の検出を行うことがまだできていない。今後の課題として残っている。
これまでと同様、主にショウジョウバエを中心的な材料とし、動物型緊縮応答の研究を継続する。前年度の研究で、これまで報告された大腸菌のRelA発現体では、ppGppの合成量がそれほど上昇していないことがわかった。そこで新たにppGppを過剰蓄積するショウジョウバエを作出し、その体内のppGppを定量するとともに、その表現型を精査する。具体的には、GAL4プロモーター下流に、植物内で発現させるとppGpp合成量が大幅に上昇することがわかっている枯草菌由来のppGpp合成酵素YjbM遺伝子を配置し、そのコンストラクトを、ショウジョウバエの第二染色体の特定のサイトに導入する。そのラインをGAL4発現ラインと掛け合わせることで、YjbM過剰発現体を作出する。またショウジョウバエのppGpp分解酵素Mesh1遺伝子変異体ともの掛け合わせることで、さらなるppGpp過剰蓄積が期待できる。Mesh1遺伝子は、第3番染色体にコードされているため、Mesh1遺伝子変異とYjbM遺伝子との共存が、掛け合わせで可能となる。また、酵母以外の真核生物(培養細胞、ゼブラフィッシュ)などからのppGppを試みる。
平成28年度に計画していたLC-MS/MSを用いた実験が予想よりも遅れ、LC-MS/MS用カラムの購入を行うと、年度を跨いで支払い請求などの事務手続きを行わなければいけない可能性が生じた。そのため、このカラムの購入を平成29年度に行うこととなったため。
前年度に購入できなかったカラムの購入代金にあてる。
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