研究課題
αKlothoタンパク質はカルシウムやリン、ビタミンDの調節に関与し、生体の恒常性維持に重要な役割を担っている。αKlothoは1回膜貫通型のタンパク質であり細胞外領域にグルコシダーゼと相同性を持つ領域を2つ有している。αKlothoはFGF23と相互作用し、FGF23が腎臓で機能するために必須の分子である。本研究では、αKlothoとFGF23の機能的相関の分子機構を糖鎖の観点から明らかにすることを目的としている。本年度はまず、FGF23に発現するHNK-1糖鎖様構造の合成酵素を同定するために、様々な糖転移酵素(グルクロン酸転移酵素およびそれと構造的に類似する糖転移酵素)とFGF23とを細胞に共発現させ、HNK-1糖鎖を認識する抗体との反応性を指標にして解析を行った。しかし、使用した糖転移酵素ではFGF23上にHNK-1様糖鎖の発現が確認できなかった。次にαKlothoはFGF23上の糖鎖だけでなくその機能発現の場である腎臓に存在する非硫酸化型HNK-1糖鎖も認識する。α-Klotho 遺伝子欠損マウスでは、腎臓における非硫酸化型HNK-1 糖鎖の発現が増加すること、また、自然老化マウスにおいても同様に非硫酸化型HNK-1 糖鎖の発現が増加することがわかった。そこで、積極的に腎臓の機能障害を引き起こす処理(ストレプトゾトシン誘導性腎機能障害)を行ったところ、腎臓における非硫酸化型HNK-1 糖鎖の発現が増加することがわかった。また、免疫染色により非硫酸化型HNK-1 糖鎖の腎臓における発現を解析したところ、発現量が上昇しているだけでなく、局在の変化も認められた。
2: おおむね順調に進展している
本研究の全体構想としてはαKlothoとFGF23/FGF受容体の機能的相関の分子機構を糖鎖の観点から明らかにすることを目的としている。αKlothoは主に腎臓で発現し、カルシウムやリン、ビタミンDの調節に重要なタンパク質であり、その欠損により骨粗鬆症や動脈硬化などの人の老化症状と類似した症状を示すことが知られている。本年度の結果から、α-Klotho 遺伝子欠損による早期の老化において、また、野生型マウスの自然老化過程において、さらにαKlothoの発現低下を引き起こすことが知られているストレプトゾトシン誘導性腎機能障害において、いずれも非硫酸化型HNK-1糖鎖の発現増加を確認した。したがって、αKlothoの機能低下との腎蔵に存在する非硫酸化型HNK-1糖鎖発現変化には大きな相関が認められるが明らかとなった。一方で、平成28年度に当初予定していたFGF23上に発現するHNK-1様糖鎖の生合成酵素については、同定に至っていないが、その検出感度を上げるためにFGF23のO型糖鎖付加に必須のppGalNAc転移酵素であるGALNT3の発現ベクターの作成に成功した。さらに、α-Klothoの分子内のグルコシダーゼに相同性を持つ2つのドメインの中で、糖鎖との結合に関与する可能性のあるアミノ酸を選択し、その変異体の作成にも一部成功している。以上のことから、概ね順調に計画が進行しているものと考えた。
平成28年度に当初予定していたFGF23上に発現するHNK-1様糖鎖の生合成酵素については同定に至っていないが、FGF23のO型糖鎖の付加に影響を与えるGALNT3やゴルジ体に存在するリン酸化酵素FAM20Cの発現コンストラクトの作成に成功している。今後は、これらとの共発現によりFGF23上のHNK-1様糖鎖糖鎖生合成酵素の同定を試みる。しかし、昨年度の結果からこの解析には困難が予想されることから、同定が進まない場合は以下の実験に力を注ぐ。申請者らはαKlothoがFGF23上のHNK-1様糖鎖と結合するとともに、腎臓に存在する非硫酸化型HNK-1糖鎖とも結合することを示す結果を得ている。そこで今年度は予定どおり、αKlothoの糖認識機構を詳細に解析し、FGF23/FGFRシグナルの制御におけるαKlothoレクチン活性の生物学的意義を明らかにする。そのためにα-Klothoの分子内のグルコシダーゼに相同性を持つ2つのドメインの中で腎臓に存在する非硫酸化型HNK-1糖鎖と結合に関与するドメイン同定するとともに、その結合に関与するアミノ酸を明確にする。さらに昨年度見出したαKlothoの発現低下に伴う腎臓の非硫酸化型HNK-1糖鎖の増加が起こる現象が、αKlothoの機能とどのように関連しているのかについて、腎蔵の非硫酸化型HNK-1糖鎖の生合成酵素であるGlcAT-S遺伝子欠損マウスを用いて解析を行う。
物品費については実験の効率化を図ったことと、生合成酵素同定後の実験を次年度に行うことになったため当初予定した金額より下回った。旅費については研究打ち合わせなどをメールやネット回線を用いることにより削減した。
次年度の使用額は当初予定していた研究計画の遂行に使用するとともに、研究成果の発表を積極的に行うこと、また、追加の実験計画として腎臓の機能不全とHNK-1糖鎖の関係を明らかにする実験(主にGlcAT-S遺伝子欠損マウスの解析)に使用する。
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