ES細胞やiPS細胞が持つ多能性は個体を構成する全ての細胞種に分化できるが、自律的な個体形成はできない。一方、全能性は自律的な個体形成ができる細胞の能力であり、哺乳類では受精卵から桑実胚に至る前の着床前初期胚に存在する細胞のみにその能力が備わっている。しかし、全能性の分子基盤は多能性に比べ解明が進んでいない。研究代表者らはマウス着床前初期胚における糖鎖修飾プロファイルを調べ、4細胞期胚が特異的な糖鎖修飾状態であることを見出した。マウスでは4細胞期胚までが全能性を有し、その後失われることから、4細胞期胚特異的な糖鎖修飾状態が全能性の分子基盤に深く関与する可能性が高い。そこで本研究では、全能性の消失と関連する4細胞期胚特異的糖鎖修飾が全能性の分子基盤において果たす役割を明らかにすることを目的としている。 当該年度は、以下の研究を進めた。 1. 4細胞期特異的な糖鎖修飾を認識するレクチンを用いて、マウス着床前初期胚における糖鎖修飾の局在を調べたところ、透明体と胚体の両方に存在していることを明らかにした。さらに、胚体では2細胞期までは細胞膜に局在しているが、4細胞期以降は細胞質内に移動することを明らかにした。 2. 昨年度に行ったマウス着床前初期胚のトランスクリプトームの情報解析により絞り込んだ糖鎖の合成に関わる候補酵素について、マウス受精卵におけるCRISPR/Cas9システムを用いたノックアウトにより糖鎖修飾の責任分子の探索を行い、遺伝子の欠損により4細胞期特異的な糖鎖修飾が減少する糖鎖合成酵素を同定した。 3. 4細胞期特異的な糖鎖修飾の責任分子であることが示唆された糖鎖合成酵素を欠損させると着床前初期胚発生の異常および遅延が観察され、4細胞期特異的な糖鎖修飾が胚発生に重要な役割を果たしていることが示唆された。
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