研究実績の概要 |
テイルアンカータンパク質は、シグナル配列を持たない一群の1回膜貫通型タンパク質である。テイルアンカータンパク質ファミリーの機能は多岐にわたるが、中でも小胞輸送、小胞体関連タンパク質分解(ERAD)など生命機能に必須な役割の多くを担っていることが明らかにされてきた。我々のこれまでの研究から、テイルアンカータンパク質の生合成プロセスが破綻すると、BAG6複合体がこれを細胞質で捕獲し、ユビキチン依存的タンパク質分解系に輸送することを見出した。我々は本研究で、BAG6複合体を構成するサブユニット群の解析を進め、UBQLN4やUBXN1などの新規因子をBAG6複合体に見出し、その役割を解明した(Suzuki and Kawahara, EMBO Rep., 2016)。さらに、本研究でBAG6複合体の標的となる新しい膜タンパク質を同定し、細胞内膜タンパク質生合成の恒常性を維持する新システムの提案を行うことが出来た(Yamamoto et al., Sci. Rep., 2017)。一方、BAG6が基質を識別する分子機構についても解析を進め、我々がBUILDドメインと初めて定義した領域が、基質の疎水性領域を認識することを見出した。我々は、BUILDドメインが基質を認識する分子機構をアミノ酸レベルで解明することにも成功した(Tanaka et al., FEBS J., 2016)。最新の解析から、BAG6複合体を形成するサビユニット群が動的平衡の中にあること、種々のストレス存在下でこの平衡が変化し、BAG6複合体自体が極めてダイナミックな状態で機能しうることも明らかになりつつある。このように、我々の本研究により、テイルアンカータンパク質を中心とする膜タンパク質の恒常性維持にBAG6複合体が必須の機能を有すること、さらにBAG6複合体の制御に、これまで想定していたよりも遥かに精巧なシステムが存在することを解明出来た。
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