研究課題/領域番号 |
16K14700
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
水島 恒裕 兵庫県立大学, 生命理学研究科, 教授 (90362269)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 蛋白質 / 酵素反応 / ユビキチンリガーゼ / エフェクター |
研究実績の概要 |
腸管病原細菌は宿主への感染に際し、エフェクターと呼ばれるタンパク質を宿主に分泌することで宿主の防御機構を阻害し、感染を拡大している。近年、赤痢菌などの病原細菌の持つエフェクターの中に、ユビキチン修飾経路において基質にユビキチンを付加する役割を担うユビキチンリガーゼ(E3)、IpaHファミリーが報告された。IpaHファミリーは哺乳類には存在しない新しいタイプのNovel E3 ubiquitin ligase (NEL)ドメインとロイシンリッチリピート(LRR)ドメインを持ったタンパク質であり、NELドメインにより宿主の防御経路に関わるタンパク質にユビキチンを付加し、プロテアソームによる分解へと導くことで感染に寄与している。 IpaHファミリーNELドメインによるE3機能発現機構の解明を目指し、NELドメインと10種類の宿主ユビキチン結合酵素(E2)との相互作用の解析を行った。それにより、IpaH4.5 NELドメインは強い自己ユビキチン化活性を与えるE2のUbcH5ではなく、別のE2と強く相互作用することが示された。さらに、この結果に基づきIpaH4.5 NELドメインと相互作用が示されたE2を混合し、結晶化を行った。 IpaHファミリーと類似のLRRドメインを持つエフェクターとして、エルシニア属細菌のYopMが報告されている。YopMはNELドメインを持たないにもかかわらず、異なる構造モチーフによりE3活性を示すことが報告された。そこで、報告されたものと同じ株のYopMの大腸菌発現系および精製系の構築を行い、E3活性を確認した。さらに、精製したYopMを用い単独状態の結晶化を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
赤痢菌ユビキチンリガーゼIpaH4.5 NELドメインを用い、複数のユビキチン結合酵素に対する活性および結合における特徴づけを行った。得られた結果は複合体構造解析のための基盤となるものである。また、病原細菌の持つNELとは異なる新たなユビキチンリガーゼ活性モチーフが報告されたことから、新規モチーフを持つタンパク質の精製、結晶化を行い、結晶の作製に成功した。
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今後の研究の推進方策 |
IpaHファミリーの機能発現機構の解析は順調に進行しており、今後はNELドメインとE2酵素の複合体、結晶化、構造解析を進める。また、IpaHファミリーの機能制御において、NELドメインと共にN末側のロイシンリッチリピート(LRR)ドメインが重要な働きを示すことが報告されたことから、LRRドメインを含んだ状態の構造解析も進める計画である。 NELとは異なる病原細菌の新規E3モチーフの研究では、E3機能の報告されたものと同じアミノ酸配列からなるYopM単独状態の結晶化に成功しており、構造解析を進めると共に、複合体状態の構造、機能の解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度の研究実施計画として、NEL型ユビキチンリガーゼ(E3)の反応機構の解析として、NEL型E3にユビキチンの転移した反応中間体の楮解析をあげ研究を進めた。しかし、安定な複合体の精製条件確立に至らず、大量培養、精製、結晶化用に計画した予算を繰り越すこととなった。また、CLDモチーフを持つ新規、病原細菌エフェクターの構造解析において、目的タンパク質の精製、結晶化実験が計画より順調に進展したことから、構造解析終了後の機能解析に予算を使用することとしたため。
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次年度使用額の使用計画 |
NEL型E3の解析では、ユビキチンの転移した反応中間体形成および安定な中間体精製条件の検討のため、E1、E2の発現系構築、大腸菌発現系からのタンパク質精製を行う。また、安定な複合体の大量精製、結晶化研究に予算を使用する。 CLDモチーフユビキチンリガーゼの研究では機能解析として、同様の立体構造モチーフを有するタンパク質の探索を行うと共に、遺伝子組み換えを用いたCLDモチーフの機能解析研究に使用する計画である。
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