腸管病原細菌は宿主への感染に際し、エフェクターと呼ばれるタンパク質を宿主細胞内に分泌する。エフェクターは宿主の免疫応答など防御機構を阻害し、病原細菌が感染可能な状況を作り出す。赤痢、サルモネラ、エルシニア菌などの病原細菌の持つエフェクターの中に、ユビキチン修飾経路において基質にユビキチンを付加する役割を担うユビキチンリガーゼ(E3)機能を持つタンパク質が複数種類報告された。赤痢菌に存在するIpaHファミリーは哺乳類の持つE3とは異なる新しいタイプのNovel E3 ubiquitin ligase (NEL)ドメインとロイシンリッチリピート(LRR)ドメインを持つE3活性を持ったエフェクターであり、NELドメインにより宿主の防御経路に関わるタンパク質にユビキチンを付加しプロテアソームによる分解へと導く。また、エルシニア属細菌に存在するエフェクターYopMはN末側のCXDモチーフによりE3活性を示す新奇なE3である。 病原細菌に独自に存在するこれら新規E3の機能発現機構を解析するため、これまでにYopMの結晶構造を決定した。そこで、N末側にCXDモチーフを持ちYopMと類似のLRRドメインを持つ赤痢菌エフェクターのCXD-LRRドメイン発現系を構築し、精製を行った。精製したCXD-LRRは結晶化を目指すと共に活性に必要なCys残基に変異を導入した変異体タンパク質を用い、ユビキチン化活性の解析を行った。また、データベースを用い、LRRドメインのN末側にCXD配列を持つヒトタンパク質の検索を行った。その結果、見出した複数種類の新奇E3候補タンパク質の精製を目指しクローニングを行った。しかし、新規E3候補タンパク質は大腸菌発現系を用いた系では不溶性となり精製できなかった。今後別の発現系を用いて精製を行う計画である。
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