研究課題/領域番号 |
16K14701
|
研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
鈴木 匡 国立研究開発法人理化学研究所, 糖鎖代謝学研究チーム, チームリーダー (90345265)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 血清 / 遊離糖鎖 / 肝臓 / シアリル糖鎖 / バイオマーカー |
研究実績の概要 |
血清中に新たに同定された遊離糖鎖について解析を行った。10種の哺乳動物の血清を調べたところ、どの種にも還元末端にGlcNAcbeta1-4GlcNAc構造を持ち、非還元末端にシアル酸を持つ遊離糖鎖が観察された。その主要構造は種ごとに異なり、それぞれの種の血清中の糖タンパク質上の主要な糖鎖と構造が同じであった。また、同一種の血清において胎児、幼児期、成体における血清遊離糖鎖を解析したところ、成長のステージによって特徴的な糖鎖が観察された。殆どの血清糖タンパク質は肝臓で生成されることから、血清遊離糖鎖は肝臓から分泌され、肝臓にステージ毎で発現されている糖鎖合成に関わる遺伝子の差異によって構造の違いが生まれると推測出来た。興味深いことにニワトリの血清遊離糖鎖にも遊離糖鎖は確認できたものの、非還元末端にシアル酸を持たない糖鎖が多く存在し、遊離糖鎖の代謝機構が哺乳動物と鳥類で異なっている可能性が示唆された。これらの違いは血清糖タンパク質上の糖鎖の違いともよく対応していることが明らかとなった。また本遊離糖鎖はサケの血清にも存在しており、脊椎動物に広く血清の遊離糖鎖が存在することが明らかとなった。 更に肝がん患者由来の血清糖鎖と健常人の遊離糖鎖を比較したところ、主要な2本鎖ジシアロ糖鎖の量が肝がん患者で有意に上昇しており、血清遊離糖鎖が肝臓の病的状態を検知するバイオマーカーとしての役割を果たす可能性が示された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的の一つは疾患バイオマーカーとして血清遊離糖鎖が機能しえるかどうかの検討を行うことであったが、肝がん患者の遊離糖鎖量が健常人の遊離糖鎖量と違う可能性があることを明確に示すことが出来た。
|
今後の研究の推進方策 |
遊離糖鎖の代謝機構について、その非還元末端の殆どがシアル酸で覆われていることから、肝臓におけるアシアロ糖タンパク質受容体によってシアル酸を持たない糖鎖が吸収されていることが考えられた。この仮説を検証するためにアシアロ糖タンパク質受容体のKOマウスを使用する予定であるが、遊離糖鎖の構造を比較するためにはまず野生型のマウス血清における遊離糖鎖の詳細な構造解析が必要である。そこで今後は実験マウスとしてよく用いられているC57BL/6マウスの遊離糖鎖の解析を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
予定していたアセトニトリルの購入を次年度に持ち越すことになった。
|
次年度使用額の使用計画 |
今年度購入予定にしていたアセトニトリルを次年度に購入する。
|