研究課題
細胞内には細胞骨格の繊維構造や細胞小器官の膜構造が網の目のように張り巡らされている。多くのタンパク質はこれら細胞内構造体と相互作用することで、その拡散が空間的に抑制されている。従来、タンパク質の機能解析は精製したタンパク質を用い、このような細胞内構造体の影響を考慮しない中で実施されてきた。本研究では、細胞内と同様に拡散運動が空間的に制限される条件下でタンパク質の振る舞いを解析し、細胞内構造体が共存するからこそ発現されるタンパク質機能について解明した。具体的には、細胞骨格タンパク質が協働することで機能する神経細胞突起形成の分子機構を「微小管結合タンパク質(MAPs)の拡散運動」を手がかりに解析した。細胞骨格結合タンパク質として、MAP2、MAP4、Tau、PTL-1、およびミオシンを用いた。 これらの結合タンパク質を蛍光ビーズや蛍光タンパク質により蛍光標識し、ガラス基板上に固定化した微小管およびF-アクチンに対する相互作用を蛍光顕微鏡によりリアルタイムイメージングした。その結果、これたの細胞骨格結合タンパク質が微小管やF-アクチンに対して結合する様子をリアルタイムイメージングすることに成功した。また、生体内と同様に、微小管およびF-アクチンの両方が共存する際に、MAPsがどのように作用するのか蛍光顕微鏡を用いて観察した。その結果、微小管と相互作用した全てのMAPsはF-アクチンと結合できないことが明らかになった。一方で、F-アクチンと結合したMAP2とMAP4の一部のアイソフォームは微小管と結合できることが明らかになった。また、培養細胞にMAP4を発現させると突起が形成されること、また、その際MAP4は突起内のアクチンと微小管の両方と共存している様子が観察され、MAP4によるアクチンと微小管の相互作用が細胞突起形成に関与している可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
MAPsの微小管およびF-アクチン上での一次元拡散運動の解析については、計画より若干遅れているが、新たに追加したF-アクチン上でのミオシンの経時的相互作用の解析には成功した。その成果については、現在論文を国際専門誌に投稿中である。MAPsを介したF-アクチンと微小管の相互作用のin vitro解析については、既に終え、微小管と相互作用した全てのMAPsはF-アクチンと相互作用出来ないことが明らかになった。これは、微小管によりMAPs内のF-アクチン結合部位が塞がれるためだと考えられた。一方で、MAP2と一部のMAP4については、先にF-アクチンと結合した場合にのみ微小管と相互作用でき、F-アクチンと微小管のハイブリッド束を形成することが明らかになった。さらにそのハイブリット束化活性と細胞突起誘導活性に相関があることが明らかになり、MAPsによるF-アクチンと微小管の束化が細胞突起形成に関与していることが示唆された。以上のように、計画より遅れている部分がある一方で、新たに開始した内容および計画より速く進んでいる内容があるため(2)おおむね順調に進展していると自己評価した。
ガラス基板上に固定化したF-アクチンや微小管に対する細胞骨格結合タンパク質の相互作用をリアルタイムイメージングする手法については初年度に確立できたため、今後はこれを用いて詳細な解析を進めていく。また、細胞突起形成時における微小管、F-アクチン、およびMAPsの挙動のリアルタイムイメージングについても挑戦する。
消耗品および旅費が計画と若干異なったため、端数が生じた。
消耗品および旅費として使用する予定である。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 4件、 招待講演 1件)
Scientific Reports
巻: 6 ページ: 35449
10.1038/srep35449