研究課題/領域番号 |
16K14706
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
上野 博史 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (10546592)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 1分子計測・操作 / 分子モーター |
研究実績の概要 |
平成28年度はまずサンプルに用いるE. hirae VoV1の大腸菌内発現系・精製系の最適化を行った。結果、高活性なE. hirae VoV1を安定的に調製できる発現系・精製系の構築に成功した。このE. hirae VoV1を用いて、金微粒子を回転プローブに用いた高時間分解能の1分子回転計測系を構築することで、可溶化E. hirae VoV1のATP駆動回転の高時間分解能での検出にも成功している。さらに輸送基質であるナトリウムの結合と共役したVoのステップを実証し、ナトリウム結合による回転ステップサイズを決定するために、ナトリウム濃度を飽和濃度から徐々に低下させ、その際の回転の挙動の変化を詳細に調べた。結果、E. hiraeのVoV1は可溶化状態においても外部のナトリウム濃度の低下に伴い回転速度が低下することが明らかになった。V1のみではこのような回転速度の低下は観察されないことから、これは低濃度ナトリウム領域では、Voでのナトリウム結合が律速になることを示唆している。いくつかの分子は、低ナトリウム濃度条件において、9~10点の多点の回転ステップを示した。このステップ数は、E. hirae VoV1のVo部位の構造から予想される回転ステップサイズ(360°/c10=36°)と近い値であることから、観察されたステップ回転はVoでのナトリウム結合を反映したものであると考えられる。残念ながら停止時間に比べて停止状態の角度揺らぎが大きく、停止時間の定量的な解析までは至っていない。そこで現在は回転速度をさらに低下させナトリウム結合に関わる停止をはっきりさせるために、結合に重要だと考えられている残基の変異体を作製し解析を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請書に記載したように、粘性が非常に低い金微粒子を回転プローブに用いた高時間分解能の計測を行うことで、ナトリウム濃度に依存した回転速度の変化・およびその回転速度を反映したE. hirae VoV1の回転の挙動をとらえることに成功している。そこから、ナトリウム結合と共役したVoのステップ数(9~10個)が明らかになっている。この数は、E. hirae VoV1のVo部位の構造から予想される回転ステップサイズ(360°/c10=36)と近い値である。予定していた停止時間の解析までは至っていないが、停止がより明確にあらわれると期待されるナトリウム結合に重要なcサブユニットに変異を入れた変異体の発現・精製にも成功しており、その1分子解析を現在進めているところである。そのため研究計画はおおむね順調に進んでいるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後はまず輸送基質であるナトリウムの輸送に関わる変異体の回転解析から、ナトリウム結合・解離・輸送反応を反映した回転の挙動を詳細に解析し、その反応の時定数を決定する。次に、E. hirae VoV1の平面支持膜内での回転観察系の構築を行うとともに、ナトリウム濃度の計測方法や濃度差・膜電位の制御方法を新規に開発する。さらに開発した実験系を組み合わせ、回転と基質濃度の同時計測が可能な複合計測系の構築を行う。また膜電位またはΔpNa存在下において回転の計測を行う。膜電位と、ΔpNaがATP駆動の回転にどのように影響を与えるのかを詳しく調べることで、Voでの回転エネルギー変換機構についての手掛かりを得る。最終的にはこれまで得られたE. hirae VoV1のATP駆動の回転のナトリウム濃度依存性と、膜電位・ΔpNaへの応答で得られた知見を総合的に解釈することでVoV1の回転イオン輸送機構の解明を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末の緊急を要する消耗品の購入(主に回転プローブ)や機器の故障に対応するため、予算に余裕を持たせていた。幸い緊急に対応するべき支出は無かったが、年度末ぎりぎりに無理に使用するよりも次年度に合算して研究に必要な物品の購入にあてるべきと考え次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の重要な課題である蛍光性ナトリウムプローブの選定に必要な1分子実験試薬の購入にあてる。
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