研究課題/領域番号 |
16K14707
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
廣明 秀一 名古屋大学, 創薬科学研究科, 教授 (10336589)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 分子シールド効果 / 凍結保護 / 凝集抑制 / アミロイド繊維形成 / 天然変性タンパク質 |
研究実績の概要 |
我々は新規のIDPとその部分ペプチド(20~44アミノ酸)にモデル酵素LDHを含む3種のタンパク質に対する凍結保護活性・凍結乾燥保護活性を見出した。更に、「IDPの凍結保護活性は、IDPによる分子クラウディング効果、とくに分子シールド効果に起因するものである」、との仮説を立てた。本研究では、IDPの分子シールド効果を検証するために、評価タンパク質それにIDPを添加する、またはIDPを用いた化学架橋修飾を行い、特定の温度条件で一定時間経過の凝集・沈澱またはタンパク質の失活を定量する系統的な実験を計画した。今年度の予定は、実験に用いる凝集性のモデルタンパク質の試料調製、中温~高温域で働くモデル酵素(市販)の選別と酵素活性測定系の導入・確立、および、IDPによる凝集阻害実験の一部試行である。 まず、Aβ(1-42)については、試料調製ならびに凝集核混入を低減させるための試料品質管理法の確立に成功し、チオフラビン色素による凝集過程のリアルタイム観察系も確立できた。しかしIDPによる凝集阻害実験の試行には至らなかった。ALアミロイドーシス形成性のIgG-VLドメインについて、大腸菌発現プラスミドを入手し試料調製を試みたが、十分量のタンパク質試料が得られなかった。そこで他のVLドメインとして文献報告がある6aJL2-VLドメインの大腸菌発現系を新規にプラスミドより構築した。 高温域でのIDPによる凝集阻害実験においては、IDP添加によるPCR反応の増幅率向上が認められた。しかし耐熱性DNAポリメラーゼの凝集を直接観測するのではなく、PCR反応産物で観測する間接測定系のため、データの再現性は良いとは言えなかった。他方、中温で反応する制限酵素を用いた実験では、長時間インキュベートによる酵素活性低下を低減できたため、凝集抑制が認められたと考えられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
PCR酵素を用いた、高温での耐熱性ポリメラーゼの凝集・失活抑制の実験については、新たな実験系の構築はできた。また、当初の作業仮説通り、IDP添加による酵素活性の失活の抑制効果が確認できた。しかし、必ずしもデータの再現性がよくないため、IDPそれぞれの性能評価には至らなかった。 また、今年度中にAβ(1-42)の凝集・繊維形成に関わるIDPの効果、ALアミロイドーシスに関連するVLドメインに対する凝集抑制効果について、計測まで進める予定であったが、試料調製にてまどりそこまで到達できなかった。ただし、試料調製の難度が高いことで知られているAβ(1-42)の高品質試料調製系、ならびにモデル評価系であるALアミロイドーシス由来VLドメイン6aJL2の新規の大量発現系は構築できた。 当初計画にはなかったが中温域で動作する制限酵素を用いた新規の評価系の作成に成功した。こちらの系でも、IDP添加による酵素活性失活の予防が確認できた。これらより、IDPの凝集抑制効果が幅広い温度で観察できるという、当初の予測が確認されつつある。 以上のことを勘案し「やや遅れている」と自己評価する。
|
今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、これまでの研究の遅れを取り戻すべく、以下の研究を粛々と進行させる。 1.ALアミロイドーシスに関連するVLドメインの試料大量調製の完了と、それを用いた凝集アッセイ系の構築・実装、さらにはその系を用いたIDPの凝集抑制活性の評価。 2.Aβ(1-42)の凝集(アミロイド繊維形成)実験におけるIDPの凝集抑制活性の評価。 3.アミラーゼなどの中温域で動作する産業用・食品用酵素のうち、熱安定性がやや低いもののリストアップと購入、酵素活性測定系の導入と確立。その後、それを用いたIDPの凝集抑制活性の評価。 4.IDPによる凝集抑制に関して特に産業応用性が高い、モノクローナル抗体に対するIDP凝集抑制活性の評価。これについては評価系の構築から行う必要があるが、特に凝集形成の観察に適した抗体の入手・試料調製に注力する。 5.1~3のIDPの凝集抑制効果の濃度依存性の検証と、対象物質をPEGとしたときの比較。
|