研究実績の概要 |
アクチンは、ATP結合クレフトをはさむ二つの大きなドメインからなる。らせん状のアクチン繊維の形成時にはドメインが回転し、捻れの少ない平板化したF型アクチン構造をとる(Oda, Nature, 2009)。近年の電子顕微鏡技術の発展によって、3.6オングストローム分解能のアクチン繊維構造が明らかとなり、繊維中のアクチン分子間の相互作用様式がわかってきた(von der Ecken, Nature, 2016)。しかし、重合に伴うATP加水分解機構や、なぜADP繊維はATP繊維よりも不安定で脱重合しやすいのか、といったアクチンの基本的な特性の理解には至っていない。このためには、F型アクチンの構造を、異なるヌクレオチド状態で、なおかつリガンド位置を確定できる原子分解能で決定することが必須である。
これまでにゲルゾリンファミリータンパク質の一種であるフラグミンの全長タンパク質と、アクチン2分子の複合体の結晶構造を、2.3オングストローム分解能で決定することに成功している。さらにフラグミンの三つのドメインの内の最もN末端側ドメイン(ドメイン1)との複合体の形で、高分解能のF型アクチン結晶構造(分解能1.2オングストローム)の決定に成功した。それぞれについて各種ヌクレオチド結合型(AMPPNP, ADP-Pi, ADP)構造を取得した。これらの構造から、繊維重合やATPaseなどアクチンの基本的性質について重要な知見が得られた。この成果をまとめた論文は現在投稿準備中である。
また本年度には新たにアクチンと結合していないフラグミンのドメイン2-3の結晶構造を1.9オングストロームで決定した。この構造から、フラグミンのアクチン繊維切断メカニズムについての新たな知見が得られた。この成果をまとめた論文は現在投稿中である。
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