研究課題/領域番号 |
16K14713
|
研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
塚崎 智也 奈良先端科学技術大学院大学, バイオサイエンス研究科, 准教授 (80436716)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 蛋白質 / タンパク質の膜透過 / トランスロコン / 膜タンパク質 |
研究実績の概要 |
細菌の生育に重要な役割をになうタンパク質としてプロトン駆動型モータータンパク質SecDFがある。このSecDFは、タンパク質膜透過チャネルであるトランスロコンと相互作用して複合体を形成する膜タンパク質である。トランスロコンを経由する生命必須の現象であるタンパク質の膜を超えた輸送に関わる。SecDFはプロトンの濃度勾配を利用して、大きな構造変化を伴いながらタンパク質の輸送に関わるとされている。本研究では、そのSecDFの可動性領域がどのように機能するかを明らかとすべく、高速原子間力顕微鏡を用いて1分子のSecDFをリアルタイムで解析した。その結果,SecDFの構造変化の平衡状態はバッファーのpHなどに依存する可能性があるとの予備的な結果を得た。また、SecDFのプロトン透過活性を詳細に調べるため,高いpH感受性のGFPと、SecDFを大腸菌内に発現させ、SecDFが過剰発現させた大腸菌がどの程度プロトンを通すのかについて検討を行った。プロトンの透過と、可動性領域が密接に関連していることを明らかとした。これらの動態観察と、SecDFの結晶構造解析の結果を統合し、SecDFの新規のモデルを提唱した。SecDFは、少なくとも2つの状態(I型、F型)構造をとり、膜透過の中間体の状態はI型構造であるとした。I型構造では基質と強く相互作用し、プロトンの力を使いながら、基質タンパク質を細胞外へ引っ張ると考えられた。SecDFはI型、F型の構造変化を繰り返し段階的にタンパク質の膜透過に関与していることが考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画にそって順調に進めている。本年度はSecDFの動態に関する知見をえて、構造解析の結果と統合してSecDFの分子メカニズムを提唱した。
|
今後の研究の推進方策 |
SecDFの動的メカニズムに迫るため、今後はSecDFのリアルタイム動態観察を主軸とした実験と、プロトンの濃度勾配から運動へのエネルギー変換についての知見をえるためSecDFの変異体の機能解析等を進める。SecDFのリアルタイム動態観察には、高速原子間力顕微鏡ならびに蛍光1分子観察を進める。高速原子間力顕微鏡では外部の構造変化を、蛍光一分子では分子内部の構造変化を見出す。SecDFについては、反復運動を行なっているのか回転運動をおこなっているのか、未だ不明である。まずは、この変化を見出し、次に詳細なドメインの構造変化を追跡していく。エネルギー変換については、どれだけのプロトンがSecDFの構造変化に必要であるのかについては情報がない。これを明らかとするためには定量的な生物物理学的な手法でのアプローチする。1分子のタンパク質によるプロトンの流入を測定できるマクロ装置が開発されており、その装置を用いてSecDFによるプロトン透過の測定を行う。SecDFは膜へと再構成し、そのマイクロ装置に展開させる。SecDF1分子による蛍光変化については、蛍光をもちいて定量的に観察する。系を組むことができれば、プロトン透過活性を失った変異体や、可動性を失った変異体を用いるなど、一連の変異体解析によって、SecDFのプロトン透過についての詳細な情報を得る。これら実験を通して、SecDFの作業機序を明らかとする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本実験計画では、タンパク質の精製と測定が主な実験手法である。特にタンパク質の精製過程に使用する界面活性剤などの金額が高価である。本年度は、予定よりも測定の予備実験である条件検討に多くの時間を費やしたため、タンパク質の精製の回数が予定より減少したため、次年度使用額を生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
今年度は、測定に適したサンプル調整のため、予定より多くの変異体のタンパク質を精製し測定に用いる。繰越分の予算はタンパク質精製のための消耗品に利用する。
|