研究課題/領域番号 |
16K14714
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
木寺 詔紀 横浜市立大学, 生命医科学研究科, 教授 (00186280)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | タンパク質リン酸化酵素 / 分子シミュレーション / アロステリック創薬 |
研究実績の概要 |
タンパク質リン酸化酵素(protien kinase)の酵素活性部位の外に非競合的に結合するアロステリック薬のデザインを目的として、タンパク質リン酸化酵素の大規模な構造サンプリングを行った。28年度には、MAPKパスウェイ上のMEK1を対象に非活性化状態→活性化状態までのサンプリングを行い、サンプルされた構造全てに対して、薬剤のドッキングを試みたが、通常知られている結合サイト(ATP結合サイト近傍、アロステリックサイト)以外の部位には結合しなかった。これは、MEK1がSer/Thr kinaseとして、Activation loopを除いて、ふたつのローブ間の動きが大きくないことが原因であると思われた。そこで、29年度は対象を同じMAPKパスウェイ上の受容体Tyr kinaseで、活性型非対称2量体、非活性型対称2量体の大規模な構造変化をすることが知られているEGFRに変え、同様にMSES法を用いた拡張サンプリングを行い広範な構造領域の構造分布を決定した。また、結晶構造データベース中のTyr kinaseについてそのすべての代表構造の構造分類を行い、構造変化部位が、Activation-ループ、C-ヘリックス、ローブ間運動の3つの構造要素の変化によって記述されることが分かった。データベース解析の結果から、EGFRが例外的に、大規模なローブ間運動をしていることが分かり、ローブ間運動がない他のTyr kinaseと明瞭な差があることが示された。また、EGFRのシミュレーションによる構造分布は、データベース中のローブ間運動のすべてを網羅する極めて大きなものとなり、それらふたつは整合的であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
29年度になってから、EGFRに研究対象の変更を行い、そのために年度当初には相当程度に研究の遅滞がある状況となった。しかしながら、年度内にシミュレーションにより幅広いローブ間の動きを同定し、網羅的なデータベース解析と併せて、EGFRというreceptor Tyrosine kinaseにおける他とは著しく異なった大きなローブ運動があることが同定された。そのことから、この対象に対してアロステリック薬の探索を行うこと十分に意味のあることであることが分かり、最終的な目的が達成できる目処が立った。また、ここで得られたEGFRの極めて広い立体構造分布が他のkinaseと比べて、何がどのように異なるために引き起こされたのか、という課題が新たに現れてきたと言える。結果として、最終目的であるアロステリック薬の探索の結果は得られなかったものの、EGFRという抗がん剤のターゲットに対して、極めて重要な知見を得たところから概ねという判断とした。
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今後の研究の推進方策 |
EGFRの立体構造分布が他のkinaseと大きく異なることについて今後研究を行っていきたい。まずMSES法による拡張サンプリングとして、EGFR(apo)の計算が完了したので、EGFR(ATP)、さらに、ローブ間運動が起こらないkinaseについての参照シミュレーションをしたい。その際、Ser/Thr kinaseであるMEK1ではなく、配列比較の可能な受容体Tyr kinaseのひとつとして、構造情報の豊富なFGFRを選択して、MSES法による拡張サンプリングを行いたい。その際に、EGFRのふたつの対称性の異なる二量体と計算で得られた構造分布との関連を定量的に議論し、EGFRのシグナル伝達における二量化を介した制御機構について明らかにしたい。また、データベース解析において明らかとなったA-loop、αC、lobe motionsという構造変化の要素を合わせて議論することで、受容体tyrosine kinaseの構造変化についての包括的な研究としてまとめていきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究実施期間中に、対象となる系が目的に合致しないことが示され、途中で対象とする系の変更を行い、研究を最初から始める必要が出てきた。その結果、「今後の研究」に記したような研究を継続して行う必要が出てきことが理由である。研究費の残額は、少額であることもあり、経常的な消耗品として30年度の早い時期に使い切る予定である。
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