研究課題/領域番号 |
16K14716
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
佐甲 靖志 国立研究開発法人理化学研究所, 佐甲細胞情報研究室, 主任研究員 (20215700)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 細胞情報・動態 |
研究実績の概要 |
本研究は、顕微ラマン分光法で細胞内化学種組成の細胞間分布と単一細胞内時間ゆらぎを計測し、成長因子など外来信号に対する細胞応答性との関係を調べることによって、化学組成で定義される細胞状態の違いが細胞応答を決定し、さらに細胞の個別性を生み出す過程を明らかにすることを目的としている。 我々は最近、単一細胞の細胞質から得られるラマン散乱スペクトルの時系列計測を行い、細胞質の化学種組成が10分程度の時間スケールで激しくゆらいでいることを発見した。この発見を本研究の目的に沿って発展させるため、顕微鏡下で細胞を2週間以上の長期に渡って培養しつつ、経時的に単一細胞ラマン分光するシステムを開発した。 本年度はこのシステムを用いて、様々な励起光条件と観察間隔で計測を行った。分光器の回折格子とスリット幅、対物レンズの最適化を行い、最終的にラインスキャン型の共焦点光学系を用いて、1細胞当たり10 microW x 150 s 程度の励起光(波長532 nm)照射で400~2200 cm-1に渡るラマン散乱スペクトルを得ることとした。光毒性を勘案すると、この照射条件で単一細胞から10分おきに20回程度の計測が可能である。100程度の単一細胞ラマン散乱スペクトル集団の主成分分析を行い、第5主成分までがラマンスペクトルの性質を強く示す主要な成分であることを確認した。第6主成分以降はノイズの寄与が大きい。 ヒト乳癌由来の培養細胞MCF-7を用い、通常の培養条件と、乳腺様の性質が現れるHRG添加による分化条件で、2週間にわたる単一細胞分光を行い、スペクトルの性質を比較したところ、分化因子HRGの有無だけでなく、細胞増殖によってもスペクトルの変動が現れることが明らかになった。また、ラマン散乱だけでなく、自家蛍光のスペクトルも細胞分化・増殖によって変動することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、ラマンスペクトル分光解析によって細胞分化・増殖のダイナミクスを規定する細胞状態変動の1細胞解析を行っている。微弱なラマンスペクトル変動を正確に捉えるには、計測・解析条件の最適化が最重要課題であり、条件設定に多くの時間を費やしている。そのために本格的なデータ取得・解析が遅れており、外部発表準備も含めて研究期間延長を申請した。
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今後の研究の推進方策 |
計測条件の慎重な最適化と解析法の検討により、細胞分化と細胞増殖、ラマン散乱と自家蛍光など複雑な培養および計測条件を勘案したスペクトル解析が必要であることが明らかになった。増殖と分化を区分するためには、増殖条件と分化条件の細胞集団を比較するだけでなく、増殖・分化、さらに脱分化や細胞死を含むキネティックモデル(Mouri & Sako, PLosS Comp Biol. 2013)を利用した解析方法が必要になると思われる。また、ラマン散乱と自家蛍光の分離には、前者の励起波長依存性と後者の非依存性を利用することが有効であると考えられる。本研究は1年間の延長することが認めらており、来年度は新たな解析法を考慮した研究を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究では、ラマンスペクトル分光解析によって細胞分化・増殖のダイナミクスを規定する細胞状態変動の1細胞解析を行っている。微弱なラマンスペクトル変動を正確に捉えるには、計測・解析条件の最適化が最重要課題であり、条件設定に多くの時間を費やしている。そのために本格的なデータ取得・解析が遅れており研究費に差額が生じた。差額は、主として試料調製・データ取得のための消耗品購入と、成果発表のための旅費として使用する。
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