研究課題/領域番号 |
16K14723
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
三木 裕明 大阪大学, 微生物病研究所, 教授 (80302602)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 蛋白質 / シグナル伝達 |
研究実績の概要 |
PRLのチロシンホスファターゼドメイン活性中心Cysがリン酸化され、それが結合標的分子CNNMとの結合を阻害することを見つけていた。このPRLのCysリン酸化レベルが培地中のMg2+レベルに応じてどのように変化するか調べたところ、培地中からMg2+を抜いたときにCysリン酸化が増加すると共に、PRLのタンパク質量が増加することがさまざまな細胞で共通して起こることが明らかとなった。PRLがCNNMに結合してMg2+排出を阻害することを考えると、細胞内Mg2+を保持するための合理的な応答と考えられる。一方、Mg2+を枯渇させた後にMg2+を添加すると非常に速やかに脱リン酸化が起こることも明らかとなった。これらの実験結果はPRLのCysリン酸化・脱リン酸化がMg2+に応じてダイナミックに制御されていることを示唆している。また、それがPRLの安定性制御などに関わっている可能性も示唆している。PRLのタンパク質量は悪性度の高いがんで増加していることが多くの研究で示されており、そのメカニズムとして遺伝子の重複、遺伝子転写の活性化、mRNAからの翻訳調節、など指摘されてきた。タンパク質分子の安定性制御による制御の可能性やそこにPRLのCysリン酸化が関与する可能性を示唆する新しい発見と言える。この他、イノシトールリン脂質などPRL同様に細胞膜部に存在しリン酸基のドナーとなりうる物質のリン酸化への効果を調べたり、データベースの探索からPRLと同様の活性中心アミノ酸配列を持ち活性中心Cysがリン酸化された状態で比較的安定的に存在できる可能性が考えられるホスファターゼがごく少数だけ存在することを見つけた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、細胞内Mg2+調節やがん悪性化に関わる分子PRLに生じていることを見つけた「Cysリン酸化」の重要性についての研究を行い、これまでほとんど報告事例すら存在しなかったCysリン酸化に関する解析を進め、タンパク質機能制御のまったく新たな分子機構としてCysリン酸化の重要性を明確に位置付けることを目指している。28年度においては、研究計画に具体的に記した研究内容をほぼ実施することができただけでなく、PRLのCysリン酸化に伴ってタンパク質量が増加し、安定性制御にCysリン酸化が関わっている可能性を示唆する結果を得ることができた。PRLのタンパク質量の調節はがん悪性化に非常に重要であり、その新たな分子メカニズムとして今後の発展が期待できる重要な発見と位置付けられる。これらの理由から、28年度はおおむね順調に進展していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
順調に進展した28年度の研究成果を受けて、大枠では当初の研究計画に沿った形で29年度以降の研究を進めて行くが、特にMg2+枯渇によってPRLのタンパク質量が増加する仕組みやそのCysリン酸化との関連についての解析、またこのようなPRLの応答がMg2+枯渇時にどのような機能的重要性を担っているのかについての解析、など複合的な観点から研究を進めてゆく。いずれも、研究開始当初には想定しなかった計画であるが、所期の目的の「タンパク質のCysリン酸化の機能的重要性」の追究に合致する内容である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
28年度の研究計画を実施するにあたって、研究室に所属機関から配分され執行上の使用目的が狭く限定されていない運営費交付金や財団からの寄付金で購入した物品を利用することができた。このため、本研究での物品費を大幅に節約して、交付申請の時点で想定していた金額よりも少ない研究費で研究計画をほぼ実施することができたので次年度使用額が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
29年度も大枠では当初の研究計画に沿った形で研究を進めてゆくが、本報告書の「今後の研究の推進方策」に具体的に説明したように、Mg2+枯渇によってPRLのタンパク質量が増加する仕組みやそのCysリン酸化との関連についての解析、またこのようなPRLの応答がMg2+枯渇時にどのような機能的重要性を担っているのかについての解析にも取り組むことにしている。そのため、28年度に生じた次年度使用額と合わせてこれらの研究計画を実施する。
|