感染細胞内に侵入する病原細菌の多くは、宿主細胞のユビキチン修飾系を乗っ取り感染に有利な状況を作り出すことで病態を発症する。細胞内で特殊な液胞を構築しその中で増殖するグラム陰性細菌レジオネラは、ユビキチン修飾系を操作する様々なエフェクタータンパク質群を持つ。レジオネラ液胞に集積するユビキチンの解析から、従来タンパク質のみが標的と考えられてきたユビキチン修飾反応において脂質結合という新たな反応様式の可能性を見出し、それを検証することを目標として本研究課題を遂行してきた。前年度までにラテックスビーズの細胞内導入による細菌感染を模擬する実験により、脂質修飾の可能性が考えられるユビキチンの電気泳動上での移動度のシフトが見られた。 本年度は上記の結果を受け、数種の脂質を含んだリポソームを化学合成し、これを用いた in vitro ユビキチン化反応を行った。レジオネラの持つE3 ユビキチンリガーゼを複数解析したところ、そのうちの一つの酵素が存在する場合においてのみリポソーム画分にポリユビキチン鎖の増強が見られた。さらにリポソームへの当該酵素の結合が認められた。また、リポソームとユビキチンのみを用いたケミカルクロスリンクにより、ユビキチンの脂質修飾と考えられる電気泳動上のバンドが検出された。これらの結果から、完全な証明には至らないものの、ユビキチンは脂質に結合し得るものであり、病原細菌エフェクターにはその反応を介在する可能性のあるものが存在すると考えられた。
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