研究課題
上皮細胞の細胞接着分子の機能解析はこれまで培養細胞を用いた研究を主として進められてきた。しかしながら培養上皮細胞はその樹立過程で増殖や分化などの精緻な制御機構を失っており、機械的な細胞接着機能や形態の観察以外の解析には適さない。そこで、本研究提案では、進化的に初期に上皮細胞体制を獲得した多細胞生物の実験モデル生物としてヒドラが上皮細胞の性質の理解や細胞接着分子の機能解析に有用か否かについて検討を行った。ヒドラはイソギンチャク等と同様に刺胞動物に属する原始的な多細胞動物である。ヒドラは外胚葉性上皮細胞、内胚葉性上皮細胞とその中間に細胞外マトリックスをもつ動物で、間葉組織を持たない。一方で、ヒドラの上皮細胞は発達した細胞間接着装置を有し、ゲノム上にはヒトと相同な細胞接着分子群の遺伝子セットが存在する。本研究提案では、ヒドラに存在する様々な細胞間接着分子をゲノム情報を元にクローニングし蛍光タンパク質を融合させたキメラ遺伝子を発現したトランスジェニックヒドラの作出を試みた。また、上皮細胞間のシグナル伝達機構を可視化するために細胞内CaイオンのインジケーターであるGCaMPを発現したトランスジェニックヒドラを作出し、機械進展刺激などによって細胞内Caイオンの濃度上昇が上皮細胞シートの中を伝播するか否か検討した。これらの解析を通して、上皮細胞の細胞間接着分子の機能解析や上皮細胞間のシグナル伝達を個体レベルで解析する上でヒドラが有用な実験モデル生物になることが明らかになった。
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