研究課題/領域番号 |
16K14730
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
阪口 雅郎 兵庫県立大学, 生命理学研究科, 教授 (30205736)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | オルガネラ / シグナル配列 / 局在化 / 膜タンパク質 |
研究実績の概要 |
真核細胞でタンパク質が適切な細胞内オルガネラに配分される機構は、生命活動維持のために必須事項である。分泌タンパク質や、多くの膜タンパク質は、その合成の初期段階で、疎水性アミノ酸が連続した配列の情報に従って小胞体膜に移行し、合成と同時に膜を通過したり、膜内に組み込まれたりする。一方、ペルオキシソームの膜タンパク質は、このような小胞体への標的化を免れて、その分子の合成が完了してからペルオキシソーム膜に配分される。我々は、70kDaペルオキシソーム膜タンパク質(PMP70)N末端に、小胞体標的化を抑圧する作用(ETS作用)を持つモチーフがあることを発見した。そのモチーフは、網状赤血球溶血液のタンパク質合成系とイヌ膵臓の粗面小胞体を組み合わせた無細胞系では、ETS作用を発揮することが確認されたが、ヒト培養細胞から取得された、精製因子を使った無細胞タンパク質合成系ではETS作用は認められなかった。その他のことから、このモチーフのETS作用にはそれに作用する因子が作用しており、精製因子によるタンパク質合成系にはその因子が含まれないと結論された。化学架橋反応を指標にして、各種分画手法を駆使して、結合因子の精製と候補の同定に成功した。候補因子を大腸菌にて発現し、組み換え体を使って、ETS-配列への結合を確認した。候補Aでは、点変異(S5A)で結合が大きく低下するなどの、配列特異性も確認された。その候補Aについて、細胞内での作用を確認するために、ノックダウン実験を計画し、複数種のsiRNAを入手し予備実験を行った。また、因子Aと類似性を示す因子A2を含めて、特異的抗体を入手し、HeLa細胞内にA, A2 ともに検出可能な量存在することを確認した。今後、siRNAによる発現抑制を特異抗体を使って確認し、ETS作用の変動を解析する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PMP70のN-末端にETS作用のあるモチーフを発見したのみならず、それに作用する因子を同定し、精製した組み換え型がモチーフに結合性を有することを確認できたことは特筆に値する。ETS作用に必要な配列の解析は常法通りのDNA操作と細胞生物学の実験手法でなしうるが、それに結合する因子の同定には、その結合活性の定量的アッセイ系の設定、生化学的な分画の実行など、きわめて困難な作業が必要であるからである。一方、同定後、その因子のノックダウン手法による機能解析に移ったが、その過程で、特異抗体の入手に手間どった。いくつかの市販抗体を試みたが、期待通りの検出ができなかった。最終的に、A因子、A2因子の特異抗体を得ることができたが、機能解析は翌年度に持ち越すこととなった。総合して、(2)おおむね順調に進展していると、判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、A因子A2因子のノックダウンの至適条件を設定し、ETSモチーフを有する複数の基質タンパク質の挙動を調べ、ETS作用の特性を明らかにする。その際に、報告されている酵素活性がAとA2で異なるために、それぞれのノックダウンによって対照的な効果の出ることを期待している。さらに、組み換え型A因子を用いて、ヒト無細胞タンパク質合成系でのETS作用の再構成に挑戦する。これに成功すれば、その作用の素過程の解析、他の因子との関連が明らかになる。また、ETS因子のA因子の他のペルオキシソーム膜タンパク質に対する作用を解析する。以上の知見を総合することで、ETSという新しい概念を提案し・確立していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度、ペルオキシソーム膜タンパク質に対する標的化抑制因子群の発現抑制を実施するための条件検討、材料調整を実施していた。2つの因子に対する抗体の入手が遅れていたこと、それら因子に対する発現抑制作用を示すsiRNAの決定に時間を要したため。
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次年度使用額の使用計画 |
入手が遅れていた抗体について、使用可能なものの入手にめどが立った。また、発現抑制に使用可能と判断できるsiRNAの入手もできた。H29年度には大学院生を加えて、細胞におけるペルオキシソーム膜タンパク質の局在制御に対する、小胞体標的化抑制(EST)因子群の系統的な解析に着手する。
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