研究課題
ワカレオタマボヤは成体でもオタマジャクシ型をしており、我々ヒトを含む脊索動物に共通な体制を持ちながら、体を構成する細胞数が少なく、5日という短い世代時間をもつなど、他の脊索動物にない多くの特性を備えている。ワカレオタマボヤ体幹部の表皮は、単層上皮であり、左右鏡像対称で個体差のない、かつ規則性に乏しい複雑な二次元のパターンを持ち、部域ごとに細胞や核の大きさが異なることが知られている。また、このパターンには細胞レベルで見ても個体差がない。摂餌フィルターを分泌するためにこの複雑なパターンが必須であり、生存のためにも表皮のパターニングは重要であると考えられる。このパターンは、孵化直後の幼生で観察されないが、その後5時間ほどの間に急激にできあがってくることがこれまでの観察でわかっていた。まず、表皮全体をユニークな特徴、細胞配置、遺伝子発現に基づき、複数のドメインに分割した。ドメインの境界は各細胞レベルの解像度を持つように決定した。次に、各ドメインに含まれる個々の表皮細胞に名前を付け、完成した成体表皮の細胞アトラスを完成させた。次に、その形成過程で個々の細胞がどのような挙動を取るのか、微分干渉や蛍光ライブイメージング(核と細胞膜)を用いて細胞分裂と細胞の挙動の観察を行った。その結果、パターン形成には基本的に、細胞移動や細胞死ではなく、細胞分裂の方向とタイミング、及び回数の制御が重要であることがわかった。
1: 当初の計画以上に進展している
表皮のパターン形成には基本的に、細胞移動や細胞死ではなく、細胞分裂の方向と回数の制御が重要であることがわかった。それに加え、領域ごとに、いくつかの特記すべきおもしろい現象も観察された。Fol領域は、体幹部前側方の領域で、決まった数の細胞が列状に並んでいる領域である。この部分では、細胞が背腹方向の分裂を繰り返しながら列を形成してゆく様子が観察されている。腹側の表皮には、腹側正中線方向へ向かって小さな細胞を数珠つなぎに複数生み出すように不等幹細胞分裂を繰り返し行う、大きく丸い細胞が観察された。また背側には、正中線に沿って並ぶ一列の細胞があること、これらの細胞はもっぱら前後軸方向に沿って分裂すること、さらに、この正中線を挟んで、細胞分裂方向もほぼ左右対称であることがわかった。
今年度に得られた結果は、表皮のパターニングという現象における新たな脊索動物モデル系の提供、および、ワカレオタマボヤの発生に関する将来の研究展開の重要な基盤情報を提供する。今後は、正常発生の記載だけに留まらず、発生を攪乱する実験も行い、表皮のパターニングという現象のメカニズムに迫っていくことを検討している。たとえば、特定の前駆細胞をレーザービームで破壊する、特定の遺伝子の阻害効果を検討するなどの実験的技術を導入し、パターニング形成を解析する予定である。
本年度は研究が予想以上にうまくかつスムーズにいき、実験の条件設定をする必要がなくなり、そのために計上していた使用額を次年度使用に持ち越すことができた。
翌年度分として請求した助成金と合わせ、有効活用することにより研究を精力的に遂行する。具体的には、Kaedeによる細胞追跡を充実させ表皮のパターン形成を詳細に解析する予定である。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 謝辞記載あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
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