研究課題/領域番号 |
16K14736
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
荒巻 敏寛 大阪大学, 生命機能研究科, 特任研究員(常勤) (30525340)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 骨形成 / 電気シグナル / 光遺伝学 |
研究実績の概要 |
ゼブラフィッシュにおいて、K+チャネルに生じた変異によりヒレの骨が著しく伸長することが報告されており(another-long-fin変異体)、細胞の膜電位が骨の形態制御に関与していることが示唆されている。本研究では、電気的なシグナルが骨の形態に及ぼす影響とその機構を直接的に解析するために、光遺伝学を利用して人為的に膜電位を操作することによって骨の形態変化を誘導する実験系の開発に取り組んできた。 予備実験の結果から骨芽細胞の膜電位が骨の形態に影響することは判明していたものの、非神経系細胞に光遺伝学的手法を導入し、実際に膜電位捜査を行うには想定していたよりも多くの困難を伴った。通常神経細胞で使用されるものよりも強力なチャネルロドプシン変異体を使うことに加え、高い標的細胞特異性と、膜電位操作に十分な高い発現量を両立させる発現系が必要であったからである。今回我々は骨芽細胞に高い特異性を示すsp7プロモーターを用い、更にそれを複数個タンデムに連結させることによって上記の条件を満たすトランスジェニックフィッシュの作成に成功した。また、この手法は使用する特異的プロモーターを変えることにより、他の細胞種についても応用可能であろう。 次年度では、このトランスジェニックフィッシュを用いて人為的な膜電位操作が形態に及ぼす影響を詳細に解析する。これまでの観察結果からは骨分化に影響している可能性が強く示唆されており、トランスクリプトーム解析等を用いて細胞の分化状況等を詳細に調べる計画である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
前年度までに、runx2プロモーターを用いて骨芽細胞にチャネルロドプシンを発現させることで、光照射依存的に骨の形態を変化させることには成功していた。この結果からは、骨芽細胞の膜電位を人為的に上昇させた際にはヒレ骨の短縮が起こることが示されている。しかしながら、光照射を用いて詳細な解析を行うにあたり、誘導される表現型が思いのほか弱いことが問題となった。明確な結論を導き出すには、明確な実験結果が得られることが重要である。当初は、チャネルロドプシンの発現量を高めることでこの問題を解決できると考え、プロモーターを複数個連結することで(5x runx2 promoter)発現量を増強させることを試みた。その結果、骨芽細胞におけるチャネルロドプシンの発現量は劇的に改善されたが、今度は光照射時にトランスジェニックフィッシュが死亡してしまうという問題が生じた。死因を調査したところ、発現を強化したことによって骨以外の組織での目的外の発現も強化されており、それらの組織、特に筋組織における過剰な膜電位の上昇が原因であるだろうと推測された。これを回避するために、使用するプロモーターをrunx2よりも骨芽細胞に特異的な発現を示すosterix/sp7のものへと変更した。更に、このプロモーターも複数個連結させることで(5x sp7 promoter)、骨芽細胞に特異的、かつ強力な発現量を得ることに成功した。現在、同様のシステムを用いて、チャネルロドプシンとは逆に膜電位を低下させる機能を持つiChloCに関してもトランスジェニックフィッシュを作成中である。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画よりも大幅に時間を費やしたが、骨組織特異的、かつ光照射実験に十分量のチャネルロドプシンを発現するトランスジェニックフィッシュの作成に成功した。今後はこのトランスジェニックフィッシュを用いて、計画していた光照射実験を行う予定である。これまでの解析結果からは、骨芽細胞の膜電位を低下させた場合にはヒレ骨の伸長が起こり、逆に上昇させた際にはヒレ骨の短縮が起こることがわかっている。一方で、いずれの場合もヒレ全体の大きさ、長さにはほとんど変化が見られなかったことから、骨芽細胞における膜電位シグナルは、細胞増殖などを介したヒレ骨の大きさの制御というよりは、ヒレ骨と関節のパターン(分節パターン)の形成に関与していると推測される。ヒレ骨(硬骨)と関節(軟骨)のパターンが変化しているとするならば、骨組織の分化制御が変化していることが第一に考えられるだろう。人為的膜電位操作時の細胞の分化状態の変化を解析するために、本研究ではin situハイブリダイゼーションや抗体染色などによる組織学的解析に加え、再生芽の細胞を用いて次世代シークエンサーによるトランスクリプトーム解析を実施する計画である。得られた結果については、細胞の分化マーカーの変化のみならず、分化に影響を与える可能性のあるシグナル伝達系の変化にも注目し、電気的シグナルがいかにして形態形成に機能しているのかについて考察を深めたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定外に生じた問題を解決するために、当年度は主にトランスジェニック発現系の改良に努めた。そのため、ベクターの構築、トランスジェニックフィッシュの飼育以外の目的で物品費を消費することがほとんどなかった。本来ならば当年度に予定していたトランスクリプトーム解析などの実験は、そのまま次年度に繰り下げて実施する。
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