生体内で、光遺伝学を利用して非神経系細胞の膜電位を操作するためには、チャネルロドプシン(ChR)を標的細胞に特異的かつ高い効率で発現させる必要がある。前年度までに、我々は骨芽細胞特異的プロモーター(osterix/sp7 promoter)をタンデムに連結したトランスジェニックベクターを開発し、これを用いてChRを骨芽細胞特異的、かつ高効率で発現させることに成功した。このトランスジェニックフィッシュを光照射下で飼育すると、野生型の魚よりもヒレ骨が短縮していることが観察された。ChR2は光照射下で発現細胞の脱分極(膜電位の上昇)を誘導することが知られおり、骨芽細胞における人為的脱分極がヒレ骨の短縮を引き起こすと考えられる。これとは逆に、我々の以前の研究から骨芽細胞における過分極(膜電位の低下)はヒレ骨の伸長を引き起こすことが示されており、骨芽細胞の膜電位状態がヒレ骨の形態、特に長さの制御に深く関与していることが推測される。また、同トランスジェニックベクターを利用して、骨芽細胞特異的にギャップジャンクションタンパク質コネキシンの機能阻害を行なったところ、ヒレ骨の著しい短縮が見られた。心筋細胞などではギャップジャンクションを介して細胞間で膜電位が伝播することが知られており、ヒレ骨の形態形成には「骨芽細胞間で膜電位が伝播する」ことが重要であると示唆される。今後は、本研究で我々が開発した膜電位操作技術と、膜電位応答性プロモーター(E-SARE)やカルシウムセンサーGCaMPなどによる可視化システムとを組み合わせることによって骨形成における電気的シグナルの動態を検出、解析することを試みたい。
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