ヒトの体には200種もの細胞が存在し、細胞が自律的に集まることできちんと機能する器官が形成される。しかし、器官を細胞レべルまで分解してしまうと、その高次機能は失われる。高次機能を有する細胞集団はどのようなしくみで形成されるのだろうか?これは現代科学の未解決な問題の一つである。最近研究代表者は、ゼブラフィッシュの左右差を規定する器官(クッペル胞)の形成において、クッペル細胞の数を閾値以下に減らすと、器官の機能・形態形成不全が起こり、左右差異常が誘導されることを発見した。この結果は、細菌などで知られている「クオラムセンシング」の機構が器官の機能・形態形成に関与する可能性を示唆している。また、クッペル胞の形成において、FGFシグナルの活性化が不可欠であることを報告し、そのリガンドであるfgf8aがクオラムセンシングを担うオートインデューサー(AI)であると考えた。本研究では、Fgf8aの局在および、その下流のERKシグナルを可視化することができるトランスジェニックゼブラフィッシュ(Tg)を樹立し、そのTg個体を用いて、ライブイメージングを行った結果、生体内の細胞の1つのレベルでFGF/ERKシグナルの活性化の時空間的に変化しているデータを得た。この成果は、複雑な3次元の胚構造の中で、1つの細胞レベルでシグナルを捉えることができた点で重要な進歩であると考えられる。
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