血管内皮細胞と血球細胞は胚体外中胚葉の血島において共通前駆細胞から分化する。両者はやかがて空間的に分離され、心臓の拍動開始と共に血球が血管内を循環する。血球・血管分化を制御する分子群は詳細になっているが、最初に出現する血液の「水分」がいつどのようにして適切に血管内へ取り込まれるのかは全くの謎である。本研究では胚発生初期の血管内への水分の流入機構を解明する為、水チャネル分子Aquaporin1(AQP1)に焦点を絞り、解析を行った。本年度は、Tet-ONシステムを用いて血管内皮細胞でAQP1-EYFPの発現誘導を行い、タイムラプス観察解析を行った。その結果、AQP1-EYFP蓄積量の上昇にしたがって血管内皮細胞が血球様へ変化することを明らかにした。さらにAQP1の発現により異所的に血管から遊離させた血球様細胞の発生運命を調べるため、Tol2トランスポゾンを用いてAQP1発現誘導細胞の長期追跡実験を行った。その結果、AQP1の発現によって人為的に血管内皮細胞から出芽・遊離させた血球様細胞が骨髄まで移動することがわかった。これらの発見は、血管内の「水分」がAQP1を介して血管内皮細胞内へ取り込まれ、血球細胞の出芽・遊離が起こる可能性を強く示唆する。当初計画では、血液産生に寄与する水分調節機構の解明という漠然とした目標を掲げていたが、最終的に血管内皮細胞からの血球分化転換に関わる分子メカニズムの解明まで到達することができた。
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