研究課題
平成28年度において以下の研究を実施した。1. 染色体組換えによるXO-ES細胞の作製:XX-ES細胞から1本のX染色体を人為的に欠損させることによりXO-ES細胞を作製した。先行論文(Matsumura et al. 2007 Nat Method)を参考に、XX-ES細胞のX染色体上に向かい合ったloxP配列に挟まれたDsRedを挿入した。次にCre蛋白の発現ベクターを細胞内に導入し、loxPの組換えを誘起した。X染色体の欠失をDsRedの発現消失によりモニターすることによりXO細胞を樹立した。X染色体の欠損は染色体の塗抹標本でも確認した。2. XX-, XY-, XO-ES細胞からの始原生殖細胞の誘導と疑似卵巣培養:XX-, XY-, XO-ES細胞のそれぞれから始原生殖細胞、および得られた始原生殖細胞を用いて疑似卵巣を作製した。それらを培養することによりそれぞれのES細胞からの卵母細胞の分化を評価した。その結果、XO-, XY-ES細胞からの卵母細胞の分化は著しく阻害されていることが明らかとなった。3. RNA-seq解析と各性染色体構成における特異的発現遺伝子の単離:各性染色体構成において分化過程に違いを認める時期の卵母細胞を用いてRNA-seq解析を行っている。現在までに各細胞から得られたcDNAからライブラリを調整した。現在それらについてHiSeq2500を用いて解析している。4. 卵子形成過程の観察と減数分裂時における性染色体の動態解析:それぞれのES細胞からの卵母細胞分化過程における染色体対合の動態を解析した。その結果、XO-, XY-ES細胞からの卵母細胞の分化過程においては染色体の対合異常がXX-ES細胞と比較して高いことが明らかとなった。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究の進捗状況は、研究計画書の通りに、順調に進展している。XO-ES細胞の樹立については、欠損誘導ベクターのX染色体への標的組換えや染色体の欠損誘導をほぼ予想通りの時間で終えることができた。XX-, XY-, XO-ES細胞から卵母細胞の分化誘導については、我々が独自に開発した培養方法を用いて行い、十分に再現性のとれるデータを得ることができた。RNA-seqについては当初微量なサンプルからのライブラリの調整が困難かと思われたが、近年開発された方法を用いることにより、解析に十分な質をもつライブラリを調整できた。これらの積み重ねにより平成29年度中には論文作成・発表を行えると考えられる。
平成29年度において、RNA-seqにより明らかになるXX卵母細胞とXOまたはXY卵母細胞性における遺伝子発現を経時的に詳細に比較することにより、各染色体構成における発現プロファイルの作成と性染色体の転写活性化状態を解析する。またこれらプロファイル発現をもとにしたネットワーク解析によりそれぞれの性染色体構成に特異的な遺伝子ネットワークの同定を試みる。またこれらの解析により選定されたXX卵母細胞特異的な遺伝子群を誘導的発現ベクターに組み込み、XOまたはXYの性染色体構成をもつES細胞に導入する。導入されたES細胞から分化誘導した始原生殖細胞から卵母細胞を分化誘導する。この方法によりこの遺伝子群の機能的十分性を検討する。以上の成果をまとめて、本年度中に論文作成・発表を行う。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 4件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 3件、 招待講演 10件) 産業財産権 (1件)
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