研究実績の概要 |
申請者はヒト皮膚細胞に生きた乳酸菌を取り込ませると、アルカリホスファターゼ染色陽性の細胞塊が形成され、リプログラミングの誘導がおこり、3胚葉由来の細胞に分化できる多能性細胞が作製できることを報告している(Ohta etal., PLOS ONE e51866, 2012)。その後、乳酸菌由来ホモジネートから3種類のクロマトグラフィーを経た後、各々のフラクションごとにヒト皮膚細胞を用いて細胞塊形成実験を行ったところ、あるシングルフラクションに、細胞塊形成を引き起こす活性があることを見出した。次に、このシングルピークをSDS-PAGEにかけ、クマシー染色を行った後、染まったバンドを切り出して質量解析を行ったところ、リボソームを構成するタンパク質が多く含まれることを見出した。そこで、大量培養した乳酸菌からリボソームを超遠心法で精製し、細胞塊形成実験を行ったところ、細胞塊が形成された。また、スエーデンのグループから、リボソームタンパク質L12にHisタグが付いた大腸菌を供与していただき、この大腸菌を大量培養後、Hisタグカラムを用いてリボソームを精製し、ヒト皮膚細胞を用いて同様の細胞塊形成実験を行ったところ、細胞塊が形成された。これらの細胞塊は、多能性マーカーを発現し、シャーレ内では三胚葉由来の細胞へと分化できたが、胚盤胞に移植してもキメラの形成には関与できなかった。以上の結果から、タンパク質合成装置として世界中で認識されているリボソームが、実は乳酸菌由来のリプログラミング物質の可能性があることを明らかにした(Ito et al., revised)。
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