研究課題/領域番号 |
16K14742
|
研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
岡本 龍史 首都大学東京, 理工学研究科, 教授 (50285095)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 分化全能性 / 受精卵 / 体細胞 / 植物 |
研究実績の概要 |
被子植物の体細胞は分化状態にあるが分化全能性を保持しており、物理的刺激・ストレス、環境条件の変化、生理状態の変化などによって脱分化し、さらには分裂・増殖・発生して個体へと再生する。一方、通常の受精による個体発生過程においては、未分化な卵細胞が精細胞と融合(受精)することで全能性を示す受精卵へと変換し、発生が進行する。本研究では、体細胞と受精卵の発生機構を詳細に解析および比較することで、それらの発生機作における共通点を明確にすることによって細胞の分化全能性の基幹機構が浮かび上がらせ、その知見をもとにして、植物細胞の発生・増殖および分化全能性機構の基本的原理の一端を解き明かすことを目的とする。 今年度はまず、プロトプラス作出に用いるカルスの誘導法、継代可能回数、組織的特徴などを検討し、培養期間( 1 ヶ月)、継代数(2 回)、特徴(直径約 2-6 mm、乳白色)の条件を決定した。次に、プロトプラスト作出の際の細胞壁分解酵素の組成および処理時間を至適化することで、培養に適していると想定されるプロトプラストを高い効率で調製することが可能となった。 次に、プロトプラストの比較対象となる受精卵および卵細胞を用いて、数細胞~ 10 細胞という少数の細胞でのトランスクリプトーム解析を試みたところ、反復実験間で高い相関性が見られ、さらには受精誘導性の遺伝子群の同定に成功した。加えて、それら遺伝子群の効率的な機能解析手法として、シングルセルレベルでのPEG-Ca2+法による一過的遺伝子発現系の確立を進め、卵細胞および受精卵における外来プラスミド DNA 由来の遺伝子発現に成功した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
イネカルスの作出および継代培養について検討した。カルス誘導後の培養期間、継代培養の回数や方法などの条件を変え、それらカルスからそれぞれプロトプラストの単離を試みたところ、培養期間が約1ヶ月、継代培養が2回以内のカルスが望ましく、さらに、直径約2-6 mmでかつ乳白色を呈するカルスがプロトプラスト調製に適していることが示された。さらに、プロトプラスト単離の際の細胞壁分解酵素の組成や処理時間を検討したところ、セルラーゼ1%、ペクトリアーゼ0.1%の酵素液で6時間の処理が適正であり、回収量は0.1gのカルスから約 60 万個で、生存率は52.9 %であった。また、これらプロトプラストから「増殖性プロトプラスト」を分画することを目的に、スクロース不連続密度勾配遠心法を用いて細胞の比重による分画を試みたが、細胞の損傷が激しく、調製後のプロトプラストのさらなる分画については今後の検討が必要であった。 トランスクリプトーム解析に関しては、卵細胞および受精卵10個からのcDNA増幅・ライブラリー作製および次世代シークエンス解析を3反復行い、信頼性があるデータが得られた。さらに、受精後に発現が誘導される、あるいは抑制される遺伝子群の同定にも成功した。 PEG-Ca2+法による外来遺伝子の受精卵および卵細胞における一過的発現に関しては、PEG濃度、DNA濃度、処理時間などの至適化を行い、卵細胞および受精卵でそれぞれ約30%および70%の効率で一過的発現が可能であることが示された。さらには、2種類のプラスミドDNA(pGFP, pRFP)を同時に導入したところ、双方の蛍光が同一細胞中で観察された。これは、今後の本研究による解析で同定されると期待される全能性に関与する遺伝子と蛍光マーカータンパク質遺伝子の同時発現が可能であることを示している。
|
今後の研究の推進方策 |
単離したプロトプラストから「増殖性プロトプラスト」を分画する方法を昨年度検討したが、スクロース密度勾配遠心法では細胞の損傷が著しかったことから、パーコールなどの溶媒を用いた分画を行い、増殖性プロトプラストの濃縮を行う。次に、増殖性プロトプラスト、および非増殖性プロトプラスト各10個を用いてトランスクリプトーム解析を3反復行う。増殖性および非増殖性プロトプラストのデータ解析・比較により、増殖性プロトプラスト中で発現が著しく高い遺伝子群を同定する。さらにそれら遺伝子群と、H28年度に同定された受精により発現が著しく誘導される遺伝子群を比較・解析することにより、受精卵および増殖性プロトプラストで共通して誘導される/高発現する遺伝子群を特定する。 上記の遺伝子群に対するRNAiコンストラクトやMOアンチセンスオリゴを、PEG-Ca2+法により受精卵および増殖性プロトプラストに導入し、それら細胞の分裂・増殖が阻害されるか否か観察する。阻害効果が確認された際は、当該遺伝子の高発現コンストラクトを作製し、それらを卵細胞および非増殖性プロトプラストに導入する。それらを培養し、導入細胞(卵細胞または非増殖性プロトプラスト)で分裂が誘導されるか否か調べ、誘導効果を示した遺伝子を分化全能性に関与する遺伝子候補とする。さらに、それら候補遺伝子に対するノックアウト植物を入手または作製し、それらイネから得られる受精卵およびプロトプラストを用いた解析を進めることで、体細胞と受精卵において共通する発生機作の一端を明らかにする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
プロトプラストの次世代シークエンス解析を予定していたが、H28 年度中に増殖性プロトプラストの分画を達成することが出来ず、卵細胞・受精卵に関しては予定通りに解析を行ったが、プロトプラストに関しては次世代シークエンス解析を行っていない。このことが、次年度使用額が生じた主な理由である
|
次年度使用額の使用計画 |
プロトプラストサンプルの次世代シークエンス解析費用として使用予定である。
|