研究課題
被子植物の体細胞は分化状態にあるが分化全能性を保持しており、様々なストレスや生理状態の変化などによって脱分化し、さらには分裂・増殖・発生して個体へと再生することもできる。一方、受精による個体発生過程では、未分化な卵細胞が精細胞と融合することで全能性を示す受精卵へと変換し、発生が進行する。本研究では、体細胞と受精卵の発生機構を詳細に解析および比較することで、それらの発生機作における共通点を浮かび上がらせ、植物細胞の発生・増殖および分化全能性機構の基本的原理の一端を解き明かすことを目的とした。まず、イネ体細胞カルスの形態とそれらカルスから調製したプロトプラストの細胞活性の関係、および継代培養時のカルスの移植方法などの検討を進めた。その結果、継代培養1代目かつ移植後4日目のカルスからプロトプラストを調製すること、および、1 % セルラーゼ 、0.1 % ペクトリアーゼ Y-23での6時間処理が最適であることが明らかになった。この際のプロトプラストの回収量及び単離時の生存率は、それぞれ、約400万プロトプラスト/gカルス及び52.9 %であった。この確立した実験条件で培養したプロトプラストの分裂・増殖過程の連続観察を行ったところ、プロトプラストの分裂・増殖パターンを7つに分類することができ、増殖性プロトプラストは、培養開始時には1細胞1核であり、培養3日目に2核に分裂し、その後細胞分裂、増殖を進行して最終的にカルスを形成するということが示された。また、培養したプロトプラストの約3.5 %(n=8/224)が増殖性プロトプラストであった。このことは、本研究で確立した方法により特定された増殖性プロトプラスト由来の細胞を単離・回収することで、それらのトランスクリプトームなどの単一細胞レベルの解析が可能であることを示しており、植物細胞の分化全能性機構の解明に大きく貢献するものと期待される。
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