研究課題/領域番号 |
16K14746
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
内藤 哲 北海道大学, 農学研究院, 教授 (20164105)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | リボソーム / 多様性 / ストレス応答 |
研究実績の概要 |
リボソームで新たに合成されたペプチドは,リボソームの大サブユニットを貫く出口トンネルを通って出てくる。出口トンネル内にはリボソームタンパク質uRPL4とuRPL22のβループが突き出た狭窄部位があり,新生ペプチドと相互作用することが考えられている。シロイヌナズナのuRPL4とuRPL22は,ともに,2つの遺伝子を持ち,uRPL4では407アミノ酸残基のうちの19アミノ酸が異なり,uRPL22では175アミノ酸残基のうちの6アミノ酸が異なる。 uRPL4の片方の遺伝子のノックアウト株に,FLAGタグを付けた野生型uRPL4遺伝子を導入したシロイヌナズナ株を用い,この株から調製したシロイヌナズナ試験管内翻訳系を用いて,翻訳停止のアッセイを行なった。これまでに真核生物で報告のある翻訳停止を引き起こす遺伝子mRNAのいくつかについて,シロイヌナズナ試験管内翻訳系で調べたところ,翻訳停止の誘導が認められた。 広くシロイヌナズナのリボソームタンパク質遺伝子のパラログについて調べるため,既存のトランスクリプトーム解析データについて,リボソームタンパク質遺伝子のデータを抽出し,各解析における処理によるパラログ遺伝子のmRNA発現量の異同を調べた。その結果,多くのリボソームタンパク質遺伝子において,特定のパラログ遺伝子の発現量が多い傾向が見られた。また,ストレス処理により,パラログ間で発現量の増加や減少が見られ,リボソームの大・小サブユニット内のリボソームタンパク質遺伝子の応答に関して一定の相関が認められた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
シロイヌナズナ試験管内翻訳系は,遺伝的な改変を行なったトランスジェニックシロイヌナズナ株から試験管内翻訳系を調製することができ,試験管内翻訳系を用いた生化学的解析に,シロイヌナズナの遺伝学を導入することを可能にする実験系である。一方,真核生物における翻訳停止やリボソームの停滞に関する研究は,コムギ胚芽抽出液,もしくはウサギ網状赤血球来セート等を用いて行なわれており,我々が行なっているシスタチオニンγ―シンターゼ遺伝子のS-アデノシルメチオニンに応答した翻訳停止以外では,シロイヌナズナ試験管内翻訳系を用いた解析は行なわれていない。H28年度の研究で,シロイヌナズナ試験管内翻訳系で翻訳停止が誘導されたことは,本研究で考えている研究方策の蓋然性を示すものであり,大きな意味がある。 また,シロイヌナズナの多くのリボソームタンパク質遺伝子において,様々なストレス処理に対する応答で,リボソームタンパク質遺伝子のパラログによりmRNA発現量の変動が見られたことは,本研究で想定しているような応答を,実際に行なっている可能性を示唆するものであり,本研究における研究方策の蓋然性が示されたと考えることができる。
|
今後の研究の推進方策 |
シロイヌナズナの野生型株と既に作成したuRPL4の一つの遺伝子のノックアウト株にFLAGタグ付きのuRPL4遺伝子を導入したトランスジェニック・シロイヌナズナ株,および,uRPL22についての同様の株を用いて,遺伝子発現の違いをグローバルに解析する。先ず,カルス培養系を用いて,トランスクリプトーム解析を行なうと同時に,リボソームフットプリント解析を行なう。これにより,uRPL4とuRPL22遺伝子の違いによるmRNAの読み取りの違いを明らかにする。また,uRPL4とuRPL22のそれぞれのもう一つのパラログ遺伝子についても,FLAGタグを付けたトランスジェニック・シロイヌナズナ株を作出して,同様の解析に供する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
シロイヌナズナ試験管内翻訳系での解析が順調に進行したため,試験管内翻訳系の調製に用いる試薬をある程度節約することができた。
|
次年度使用額の使用計画 |
平成29年度に回した4,995円は,平成29年度に行なうマイクロアレイを用いたトランスクリプトーム解析において,より多くのmRNAを調製するために使用する。これにより,平成29年度の研究をより充実させる。
|