研究課題/領域番号 |
16K14747
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
藤田 知道 北海道大学, 理学研究院, 教授 (50322631)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ヒメツリガネゴケ / 平面内細胞極性 / 原糸体 / 膜タンパク質 |
研究実績の概要 |
多細胞生物は組織毎に固有の細胞パターンを有している。例えばハエの翅の感覚剛毛や哺乳類内耳の有毛細胞等は毛の配向性が揃うなど、個々の細胞の非対称な形(細胞極性)が、その細胞が存在する組織平面内の特定の軸に揃っており、これは平面内細胞極性(planar cell polarity, PCP)と呼ばれている。PCPの制御は組織の構築や維持、原腸陥入時の協調した細胞運動などさまざまな高次機能の基盤であり、その破綻は生命活動を直接脅かす。PCPの制御機構を理解することは、多細胞生物の高次発生原理の根本を解明することになり、まだ未解決の重要な課題である(McNeill, 2010, Cold Spring Harb. Perspect. Biol.)。 動物に比べ植物では平面内細胞極性を制御する分子基盤の解明はあまり進んでおらずよくわかっていない。我々はこれまでの研究から、ヒメツリガネゴケの原糸体の分枝形成が平面内細胞極性の分子機構の研究に優れていることに気づき、また植物特異的な1回膜貫通型の新奇タンパク質がこの制御に関わっていることに気がついた。そこで本研究はとりわけこの膜タンパク質の機能解析を進め、その後相互作用因子を明らかにし、これらの分子がPCPをどのように制御するのかを明らかにする。この研究を通じて植物PCP制御の分子基盤の全貌解明とその進化的理解を目指し、PCP研究に新たな突破口を切り開く。 当該年度は、PCPそのものやこの膜タンパク質(n1p)がどのようなシグナル系(オーキシン、低分子量Gタンパク、細胞骨格系など)と関係しており、またこの膜タンパク質がどのようにPCPを制御するのかに関する研究を遺伝学的手法やイメージングなどにより実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)n1p膜タンパク質の機能欠損株、誘導的過剰発現株における機能解析について解析を進めた。n1pとそのパラログの2重遺伝子破壊株を作成し、確立した。2重遺伝子破壊株について、分枝形成の様子などPCP制御との関連を調査したが、これまでの所PCPに関わる表現型を見出すことはできていない。特にC末端を欠損させたn1p変異体の誘導的過剰発現株の作成を行い、分枝形成などPCPとの関わりを調査した。その結果、C末領域の重要性を示唆する結果を得ることができた。 (2)オーキシン濃度勾配との関係の解析:ヒメツリガネゴケのオーキシン排出タンパクPIN可視化株を用いた研究から原糸体の基部から頂端に向かうオーキシンの流れが示唆された(Viaene et al. 2014, Curr. Biol.)。したがって原糸体においても根毛等と同様にオーキシン勾配がPCPのグローバルな位置情報に重要な可能性が考えられる。そこで、オーキシンやオーキシン極性輸送阻害剤等を処理し、オーキシンの濃度勾配を見出すことで、PCPの制御が乱れるか否かを調査した。その結果、オーキシンの濃度勾配を阻害しても分枝形成等は正常に起こることがわかった。この一方で、アブシジン酸で処理すると分枝の形成位置が乱れることを見出した。しかし、アブシジン酸がPCPに関わるかどうかは、さらに詳細な解析が必要である。 (3)n1pタンパク質と細胞骨格との関係調べるため、を細胞骨格であるチューブリンを可視化したGFP-tubulin株を背景に、n1pの誘導的過剰発現株を作成し、過剰発現時の微小管の配向などの変化を調査した。その結果、フラグモプラスト微小管が通常では形成されない位置に形成されることがわかった。また微小管そのものの長さの平均値が、野生型に比べ、n1p過剰発現株では、短くなる傾向にあることがわかった。このような微小管の変化とPCPの関係はまだ明らかではない。
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今後の研究の推進方策 |
(1)n1pタンパク質のPCP制御に関わる機能ドメインの特定: このタンパク質は大きく細胞内ドメイン、膜貫通ドメイン、糖鎖修飾ドメイン、細胞外ドメインに分けることができる。前年度のC末端側ドメインのデリーションシリーズに加えて、膜貫通ドメイン、糖鎖修飾ドメインの欠失変異株を作成し、PCP制御に関わる機能ドメインをさらに詳細に検討する。 (2)前年度に示唆されたアブシジン酸とPCPの関わりをさらに調査する。 (3)細胞骨格との関係の解析はチューブリンを可視化したGFP-tubulin株を背景に、n1pの誘導的過剰発現株を作成できており、前年度見出した微小管の局在や長さの変化について、再現性や出現頻度を確認し、PCPとの関係をより詳細に調査する。 (4)植物特異的低分子量Gタンパク質シグナル制御系がシロイヌナズナ等の根毛のPCP制御に重要であることが報告されている。そこでヒメツリガネゴケの低分子量Gタンパク質シグナル系の正の制御因子であるRopGEFタンパク質に注目し、蛍光タンパク質をノックインしたRopGEF可視化株を作成し、その局在を調べPCPとの関係を調べる。またRopGEFの遺伝子破壊株を作成し、分枝形成位置等を調査し、PCPに関わる表現型を示す可能性について調査する。 (5)Dendraタグを利用した複合体タンパク質の同定:作成済みのDendraノックイン株を用い、Dendra抗体を利用し免疫沈降を行い、沈降物を質量分析計により解析し、n1pと複合体を形成しているタンパク質のスクリーニングを開始する。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度に予定していたn1pの機能ドメインを解析を当初予定より詳細に行う必要がでてきた。そのため、明らかにできた機能ドメインと相互作用する因子のスクリーニングを次年度にシフトして実施することが妥当であると考えられたため、このための使用額に差額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
n1pの機能ドメインを解析を当初予定より詳細に行う必要がでてきており、そのためのコンストラクト、形質転換作業を現在進めている。この作業が終了し次第、明らかにできた機能ドメインと相互作用する因子のスクリーニングを開始し、予定していた使用額をこの目的で使用する予定である。
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