光合成や代謝など植物の必須機能を支える上で、核と葉緑体間の双方向シグナル伝達は重要な役割を果たすが、とりわけ葉緑体の状態を核に伝えるプラスチドシグナルについては、現象論的には多くの報告があるものの、分子メカニズムはほとんど明らかにされていない。本研究では特に、この情報伝達経路において中心的に機能する制御因子GUN1の役割と下流遺伝子制御の多様性に着目して、プラスチドシグナルによる核遺伝子発現制御の新しい側面を明らかにすることを目指した。 今年度の研究により、GUN1タンパク質の検出系をようやく最適化することができた。GUN1は非常に微量のタンパク質であり、これまで様々なサンプル調製法を試していたもののうまく検出できなかったが、学会等での情報収集を経て、GUN1の発現が発育初期に特化していることが予想された。この時期での挙動に着目してGUN1発現パターンの変動を調べた結果、確かに発芽3日後くらいから蓄積が見られ、7日後にはほぼ消失することが示され、特に生育初期におけるプラスチドシグナル伝達に関与する可能性が示唆された。この時期におけるChIP解析等は現在も引き続き検討を進めている。 また、これまで検討を進めてきたストレス応答の側面に加え、概日時計に依存した遺伝子発現制御においてもプラスチドシグナルが関与する結果が得られた。具体的には、光合成装置である光化学系Iと光化学系IIの中間に位置するプラストキノンの酸化還元状態の異常を阻害剤により引き起こすと、葉緑体から核への情報伝達による核コード時計関連遺伝子の発現パターンが異常となることが示された。また、以上のようなプラスチドシグナル伝達は高等植物のみならず光合成微生物でも一部保存されており、両者のシステム間の普遍性と多様性について理解を深めることができた。
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