研究課題/領域番号 |
16K14751
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
小関 良宏 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50185592)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | アントシアニン / クロロフィル / 紅葉 / 落葉 / 老化 / オオカナダモ / カキ / モミジ |
研究実績の概要 |
紅葉は、秋に植物の葉が赤色に変化する現象であり、アントシアニンの蓄積とクロロフィルの分解によって引き起こされる。これまで一般的に紅葉の原因は秋に起こる葉内の糖量の増加であると考えられてきた。しかし一方で 100 年以上前から、植物内には糖ではない何らかの紅葉を誘導する因子が存在する可能性が示唆され、仮想物質として「クロモゲン」と呼ばれてきたがその実態は未解明であった。当研究者は、これまで水生植物であるオオカナダモ切断葉において光照射下でショ糖により紅葉を誘導する実験系を確立し、さらにオオカナダモの茎にショ糖以外の紅葉誘導因子が存在することを見出し、これを単離精製してその構造を決定し、実体物質としてのクロモゲンの存在を明らかにした。本研究では、水生植物のみならず陸上植物、特に一般的に秋の紅葉が見られている木本植物においても、このような紅葉誘導因子が存在しているかを明らかにするため、まずカキおよびモミジの紅葉から低分子化合物を抽出し、その中にオオカナダモ切断葉を紅葉させる化合物が含まれるかを調べた。その結果、カキ紅葉およびモミジ紅葉ともに光照射下でショ糖添加なしでオオカナダモ切断葉に紅葉を誘導する活性があることが明らかになった。そこで大量のカキ紅葉から低分子化合物画分を抽出し、オオカナダモ切断葉紅葉誘導系をバイオアッセイ系として紅葉誘導因子の単離精製を進めたところ、高速液体クロマトグラフィー上でシングルピークとなる画分に紅葉誘導活性があることが明らかになり、質量分析の結果、その分子量は 198 の化合物であることが明らかになった。またオオカナダモに対する紅葉誘導因子の 1 つであるエピカテキンについて、カキとモミジの幼木にスプレーしたところ、カキにおいて紅葉は誘導されなかったが、モミジにおいては紅葉が誘導されることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
奈良県農業研究開発センターにおいて収穫されたカキの紅葉を 80% メタノールに入れて破砕し抽出を行った。抽出液をろ過した後、濃縮乾固し、乾固物に水を加えて溶解した。不溶物を遠心で除去した後、HP-20 にロードし、水洗した後にメタノールで溶出させ、濃縮乾固し、70% メタノールに溶解した。これを Sep-Pak C18 にロードし、20%、30%、50% メタノールで段階的溶出を行ない、各溶出液を濃縮乾固し、水に溶解してオオカナダモ切断葉に各種濃度で添加してインキュベートした。その結果、20% メタノール溶出画分にアントシアニンの合成とクロロフィルの分解を引き起こす紅葉誘導活性があることが明らかになった。そこでこの画分を C18 カラムによる高速液体クロマトグラフィーでさらに分画し、得られた各画分の紅葉誘導活性を調べたところ、保持時間 4.6 分のピーク部分に紅葉誘導因子が含まれることが推定され、これを質量分析機にかけたところ、その化合物の分子量は 198 であることが明らかになった。 オオカナダモにおいて紅葉誘導活性を示すエピカテキンについて、木本植物に対する紅葉誘導活性を明らかにするため、まずモミジ幼木の葉に対し、10-9 M に調製したエピカテキン水溶液を 3 ~ 4 日に 1 回、2 ヶ月間スプレーした。その結果、6 月からスプレーを行った場合には紅葉せずに葉が枯死したが、10 月からスプレーを行った場合、11 月下旬には紅葉が起こり、エピカテキンによって紅葉が促進されることが明らかになった。さらにカキの葉における紅葉誘導のモデル木を作出するため、1 本のカキ台木に紅葉する品種“富有”と紅葉しない品種“台湾正柿”の穂木を接ぎ木した。十分に活着したことが確認された後、モミジと同様に 10 月からエピカテキン溶液をスプレーしたが紅葉することは見られなかった。
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今後の研究の推進方策 |
カキ紅葉から部分精製した低分子化合物に紅葉誘導活性があることが明らかになったが、未だ不純物が含まれていることが高速液体クロマトグラフィーの溶出プロファイルおよび質量分析機の解析バックグラウンドにおいて明らかであり、さらなる精製が必要である。さらに核磁気共鳴装置による構造解析のためには量的に少ない。そこで次年度においては、さらに出発材料を増やし大量精製を行い、高速液体クロマトグラフィーの前に中圧クロマトグラフィーによる分離ステップを入れて化合物の精製度を高め、核磁気共鳴装置による構造決定を試みる。そこで化学構造が決定できたところで、それを有機化学合成し、天然物由来の化合物と化学合成物とで等しく紅葉誘導活性があることを確認する。もしも核磁気共鳴装置による構造決定が不完全な場合でも高純度に精製した天然物について高精度質量分析を行い、精密分子量を測定して分子組成を明らかにし、その情報から複数の分子構造が推定された場合においても、それらに該当する化合物をすべて有機化学合成し、オオカナダモ紅葉誘導系によるバイオアッセイによって、紅葉誘導活性があるかどうかを明らかにする。 カキの葉にエピカテキンをスプレーしても紅葉が誘導されなかった原因として、カキ葉表皮はワックス成分が多く浸透しにくい可能性が考えられたので、エピカテキンおよびカキから抽出精製した化合物、さらには有機化学合成した化合物について、これらの水溶液に展着剤を混ぜてスプレーする、あるいは低濃度のエタノール溶液としてスプレーすることで浸透性を高めて紅葉誘導活性を調べることを行なう。
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次年度使用額が生じた理由 |
3 月分の人件費につき予定勤務日数よりも実際の勤務日数が少なかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の人件費に充当する。
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