研究課題/領域番号 |
16K14754
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
町田 泰則 名古屋大学, 理学研究科, 研究員 (80175596)
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研究分担者 |
町田 千代子 中部大学, 応用生物学部, 教授 (70314060)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 植物ウイルス / 病徴タンパク質 / 病徴の伝搬 / 葉の発生・分化 |
研究実績の概要 |
トマト黄化葉巻病ウイルスの病原性タンパク質 βC1 は、シロイヌナズナにおいては、AS1に結合しRNAサイレンシングを誘導し、ウイルスの病徴を強化する。シロイヌナズナでは、AS1タンパク質は、全長の分子だけでなく、アミノ末端側とカルボキシル末端側に対応する分子(PNとPC)も存在する。最近の研究から、Nicotiana benthamiana (N. benthaniana: このウイルスの宿主となる) 植物の下位葉にβC1を一過的に発現させると、病徴は下位葉では見られず上位葉に出現することから、βC1のmRNA あるいはタンパク質が植物内を移動する可能性が考えられた。本研究では、βC1による上位葉における病徴出現にAS1が必要であるのか、またAS1 のどの領域が必要であるかを調べ、タンパク質の長距離移動に関する新規な分子機構を解明することを目指す。まず、N. benthaniana のAS1 (NbAS1) ノックダウン株(Nbas1)を作製した(平成28年度)。その後Nbas1株の下位葉でβC1遺伝子を発現させたところ、上位葉における病徴レベルは、野生型に発現させた時と比べると約半分に低下した。この結果は、βC1による上位葉での病徴発現にNbAS1が必要であることを示唆する。さらに、野生型とNbas1株の接ぎ木植物(4パターン)を作製し、βC1を台木の下位葉に発現させ、穗木における病徴出現を検討した。また、βC1は AS1 のカルボキシル末端側に結合すること、この領域を含む部分ペプチドを植物に発現させると、上位葉でのβC1の病徴効果が軽減することを見出した。このように、これまでに提案した中心的な実験はすべて行い、病徴とAS1との関連に関する重要な知見が得られつつある。さらに、これらの知見を基礎にウイルス耐性植物を作製する方途を開いた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度の研究により、βC1のNbAS1への結合と病徴発現にはNbAS1 のカルボキシル末端側の配列(PC)が必要であること、この領域をNb植物の下位葉で過剰発現すると、上位葉での病徴が軽減されることがわかった(以上、2018 年度日本植物生理学会年会で報告)。この結果を基礎にして、AS1の部分ペプチドを発現させることによりウイルス抵抗性植物を作成する方法に関する国内・国際特許を取得した。また、上位葉での病徴の出現には、接種した下位葉から上位葉へβC1のタンパク質などの分子が移動する可能性が考えられた。この過程のどのステップにNbAS1が関与するかを検討するために、野生型植物とNbas1株との間で4種類の接ぎ木植物(野生型-Nbas1, Nbas1-野生型、野生型-野生型、Nbas1-Nbas1)を作製し、台木の下位葉にβC1を導入・発現させ、穂木の上位葉における病徴の程度を調査した。これまでに野生型-Nbas1とNbas1-野生型に関する予備的結果が得られ、どちらの病徴レベルも接ぎ木していない野生型植物に接種した場合よりも低かったが、ともに同程度のレベルであった。現在、他の接ぎ木植物につての解析を進めている。一方、本研究の中で予想外の結果も得られた。それは、ウイルス感染させた Nb 植物(感染が容易である植物)を、実験室ではウイルス感染が困難な植物(トマトやワタなど)に接ぎ木することにより、感染を成立させることができるという新しい感染法の発見である。これは予想外の成果であり、この方法は今後の作物へのウイルス感染実験を容易にすると期待される。以上、モデル植物を使ってβC1の病徴出現に AS1 が必要であることはわかったが、接ぎ木をすると、予期に反して病徴そのものが減弱される可能性も見られ、進行中の実験も含めてさらなる研究が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
今回の接ぎ木実験では、台木が野生型かNbAS1ノックダウン株かに関わらず、上位葉では同レベルの病徴が見られ、その病徴のレベルは接ぎ木をしていない野生型植物での上位葉の病徴と比べて低かった。その理由としては、接ぎ木に使った台木に形成された展開葉がβC1の一過的発現に適していない可能性や、接ぎ木面そのものの存在が上位葉での病徴の出現に対して抑制的に働いている可能性が考えられる。このような問題を克服するためには、接ぎ木を利用するよりも、下位葉から上位葉への移動分子を直接的に検出する実験を行う方がよい可能性もある。一方、βC1はAS1 領域はカルボキシル末端側(PC)に結合すること、結合力は野生型AS1より強いことがわかった。これを利用することにより、より効果的なβC1の長距離移動やあるいは病徴の抑制を実現できる可能性も出てきた。今後βC1とAS1を共導入することにより、AS1の効果をより明瞭に検出できる可能性もある。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該研究課題に関する論文を昨年末に投稿したところ、審査結果は前向きな評価であり、現在審査員のコメントに従い論文を修正中である。近日中に再投稿に予定であったが、最終的な受理がいつになるかは不透明であり、次年度になる可能性が高かった。受理された場合には論文掲載料が必要になるため、予想される経費を次年度に繰り越した。
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