これまで、われわれは、マメ科の植物の場合のように、莢に覆われた種子を持つ植物においては、その種皮の光合成が、葉の光合成とは異なる、特殊化した性質を示すことを明らかにしてきた。これは、主にソラマメを用いた実験に基づいたものであるが、平成28年度より、この現象の一般性を調べるために、その他の種の植物を用いた研究を開始し、平成29年度においては、ソラマメ、インゲン、スナップエンドウの三種の植物の果実の間での詳細な解析を進めた。その結果、ソラマメ、インゲン、スナップエンドウの光合成は、それぞれ異なる点において特殊性を示し、「莢を持つ果実の種皮の光合成の特徴」といった形での一般化した記述をすることはできないことが明らかとなった。しかし、一言に果実と言っても、開花からの日数に応じて常に変化を続けており、その光合成の活性も時間とともに変化し続けていることから、何をどのように比較すべきなのか、という点をおさえる必要がある。そこで、平成30年度においては、栽培が最も容易であるスナップエンドウを材料として選び、開花からの光合成の変化を38日間にわたって継続的に測定することとした。その結果、光化学系Ⅱの量子収率を示すクロロフィル蛍光のパラメータであるFv/Fmの値は、開花後10―30日の20日間については大きく変動を示さないことから、従来観察されていた生物種による差が老化の程度の差である可能性は否定された。また、光合成の効率の低下と莢の透過率の上昇の間の相関は低いことから、少なくとも同じ種では、莢の透過率の変化がマメの光合成を決めているのではないことが明らかとなった。従って、得られた結果からすると、種による違いがマメの光合成の違いを生み出す主な原因であると結論できる。
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