研究課題/領域番号 |
16K14760
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研究機関 | 基礎生物学研究所 |
研究代表者 |
玉田 洋介 基礎生物学研究所, 生物進化研究部門, 助教 (50579290)
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研究分担者 |
長谷部 光泰 基礎生物学研究所, 生物進化研究部門, 教授 (40237996)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | DNA損傷 / 幹細胞化 / 細胞リプログラミング / 発生・分化 / 植物 |
研究実績の概要 |
申請者らは、基部陸上植物ヒメツリガネゴケにおいて、DNA損傷が細胞リプログラミングを介した幹細胞化を誘導することを発見した。この結果を受けて、本研究では以下の2点を研究目的とした。 (1) DNA損傷が幹細胞化を誘導する分子機構を、DNA損傷誘導後のトランスクリプトーム解析とDNA損傷応答因子の機能解析から解明する。 (2) 精子・卵細胞形成や受精後の初期胚発生、胞子形成や物理的傷害ストレスによる幹細胞化など、既知の細胞リプログラミング現象にもDNA損傷が機能しているという仮説を立て、DNA損傷応答因子の機能解析とDNA損傷マーカー株の確立・観察によってその仮説を検証する。 (1) 複数のDNA損傷応答遺伝子について欠失株を作出したところ、欠失株においてDNA損傷による幹細胞化が起きなくなる遺伝子を同定した。この遺伝子が幹細胞化をトリガーしていると考えられた。また、DNA損傷誘導後のトランスクリプトーム解析によって、DNA損傷応答遺伝子の発現上昇の後、一過的に発現が上昇する遺伝子群を抽出できた。この中には植物ホルモン合成遺伝子、クロマチン関連遺伝子などが含まれている。これらの中に、DNA損傷と幹細胞化をつなぐ遺伝子が含まれていると考えられた。 (2) (1) で同定した遺伝子とは別のDNA損傷に関連する遺伝子を欠失させた結果、胞子体形成率が著しく低下した。胞子体形成率の低下は、精子形成、卵細胞形成、初期胚発生のいずれかに異常が生じたため引き起こされる。DNA損傷関連遺伝子欠失株と野生株の掛け合わせ実験を行い、遺伝子欠失株では精子形成に異常があることを解明した。このことは、正常な精子の形成にDNA損傷が機能していることを示している。DNA損傷がいつ、どのように精子形成に機能しているかを解明するために、遺伝子欠失株と野生株を用いて、精子形成の詳細な観察を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) については、トランスクリプトーム解析が順調に進行した結果、DNA損傷と幹細胞化をつなぐ遺伝子の候補が複数得られている。また、DNA損傷応答遺伝子の中から、幹細胞化をトリガーすると思われる遺伝子も同定できた。 (2) については、(1) とは別にDNA損傷関連遺伝子が精子形成に機能していることを解明したことから、「既知の細胞リプログラミングにDNA損傷が機能している」という仮説の検証に前進した。以上のように、 (1) 、 (2) の両方について、実験は順調に進行し、期待通りの結果が得られている。そのため、「おおむね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
(1) DNA損傷応答遺伝子の発現上昇の後、一過的に発現が上昇する、DNA損傷と幹細胞化をつなぐ遺伝子の候補群について、それぞれ遺伝子欠失株を作出する。欠失株において、DNA損傷応答は正常であるものの、DNA損傷による幹細胞化が起きなくなる遺伝子が、DNA損傷と幹細胞化をつなぐ遺伝子であると考えられる。 (2) 正常な精子形成に機能することが分かったDNA損傷関連遺伝子が、精子形成過程における細胞リプログラミングのどのプロセスに機能しているのかを、野生株と遺伝子欠失株との精子形成過程をさらに詳細に比較することで解明する。また、トランスクリプトーム解析によって同定した、DNA損傷応答後すぐに発現が上昇する遺伝子について蛍光タンパク質遺伝子を挿入し、DNA損傷のマーカー株を作出する。このマーカー株を用いて、精子形成過程にDNA損傷が起きているかどうかを観察する。また、 (1) で作出した、DNA損傷による幹細胞化が起きない遺伝子の欠失株を用いて、既知の細胞リプログラミング現象である、精子形成、卵細胞形成、初期胚形成、胞子形成、傷害による幹細胞化に何らかの異常がないか観察する。もし異常があった場合は、細胞リプログラミング過程のどの過程に異常が生じているのかを詳細に解析し、明らかにする。以上の結果をまとめて、論文を執筆する。
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次年度使用額が生じた理由 |
主に旅費に余剰が生じた。旅費は、主に研究協力者との研究打ち合わせのために計上していたが、インターネットテレビ電話サービスを利用して研究打ち合わせを行うなど共同研究を効率的に推進した結果、経費を節約することができた。
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次年度使用額の使用計画 |
「物品費」は、分子生物学実験用試薬、植物育成・採取用器具など本計画に必要な消耗品の購入に引き続き使用する。「旅費」については、研究協力者との共同研究のための旅費や、国内・国際学会に参加するための旅費に用いる。「人件費・謝金」は、分子生物学実験や植物実験に素養のある技術支援員を雇用するために用いる。「その他」は、主に論文の英文校閲費用、出版費用として用いる。
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備考 |
アウトリーチ活動 ・基礎生物学研究所 一般公開2016「生き物の不思議」、2016年10月8日、岡崎カンファレンスセンター(愛知県岡崎市)
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