申請者らは、基部陸上植物ヒメツリガネゴケにおいて、DNA損傷が細胞リプログラミングを介した幹細胞化を誘導することを発見した。この結果を受けて、本研究では以下の2点を研究目的とした。 (1) DNA損傷が幹細胞化を誘導する分子機構を、DNA損傷誘導後のトランスクリプトーム解析とDNA損傷応答因子の機能解析から解明する。 (2) 精子・卵細胞形成や受精後の初期胚発生、胞子形成や物理的傷害ストレスによる幹細胞化など、既知の細胞リプログラミング現象にもDNA損傷が機能しているという仮説を立て、DNA損傷応答因子の機能解析とDNA損傷マーカー株の確立・観察によってその仮説を検証する。 (1) DNA損傷誘導後のトランスクリプトーム解析とクロマチン修飾のChIP-seq解析の結果を合わせて解析した結果、DNA損傷に応答しない遺伝子群には抑制型クロマチン修飾がほとんど局在しないのに対し、DNA損傷に応答して発現が変化する遺伝子群には抑制型クロマチン修飾を有する遺伝子が多く含まれていることを明らかにした。このことから、DNA損傷応答に対するクロマチン修飾の寄与が示唆された。 (2) 物理的傷害ストレスによる幹細胞化に機能する複数の遺伝子の欠失株にDNA損傷を誘導したところ、幹細胞化が起きない欠失株を発見した。この欠失株の原因遺伝子が、DNA損傷応答と幹細胞化をつなぐ因子と考えられた。また、平成28年度に同定した、精子形成に機能するDNA損傷関連遺伝子の欠失株の表現型をさらに詳細に解析した結果、精子形成過程において正常なクロマチンの凝集が起きないことが明らかとなった。DNA損傷がクロマチンの凝集に機能することが示唆された。
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