研究課題/領域番号 |
16K14764
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
松田 学 近畿大学, 医学部, 准教授 (30282726)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 細胞分散 / トランスクリプトーム解析 / 細胞培養 / 酸性プロテアーゼ |
研究実績の概要 |
ひとつの組織の細胞にも多様性がある。組織の中で見かけ上同じように振る舞う細胞であっても、隠れた「個性」の差異があり、それが組織内の特別なニッチを形成して固有の機能を営んでいる可能性がある。本研究は、そうした細胞の個性のバリエーションを細胞各々のトランスクリプトーム情報をもとに把握するための方法を開発する上で基盤的技術となる、細胞の固有情報を保存したままで固定した細胞を分散する方法を確立することが目標である。これまでの本研究により、細胞RNAが保存される強酸性化での固定法が確立でき、また、酸性でも構造を保つ蛍光マーカーSiriusを利用することで細胞を強酸化条件でも検出し分離できる方法を確立できた。つぎにクリアすべきは、上述の酸性条件下で、ディッシュ培養細胞を酵素的に分散させる方法を見出すことである。ヒトペプシンなども細胞外基質を分解できるが、酸性条件下ではタンパク質の凝集が強く、一般のペプシンだけでは実用的なレベルでうまく細胞をディッシュから剥がすことができないことがわかった。今後は別の特性をもつ酸性プロテアーゼを探索し見つけ出す必要があろう。そこで、目的に適う酵素をスクリーニングにより探索するための技術として、タンパク質泳動後にポリアクリルアミドゲル内の細胞外基質消化を行う実験系を構築した。今後は、このスクリーニング系を用いて、ペプシンとは基質特異性の異なる酸性エンドペプチダーゼを見つけ出し、細胞分散法の確立を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
細胞RNAが保存される強酸性化での固定法が確立し、酸性でも構造を保つ蛍光マーカーSiriusを利用することで細胞を強酸化条件でも検出し分離できる方法を確立した。さらに、生体の特定細胞にSirius融合タンパク質を発現させて、生体組織の中から特定細胞を固定・分散後に分取するための実験系の構築を目指したが、これは遺伝子改変マウスの作成準備段階でのトラブルにより滞ってしまった。FLEX技術を利用してコンディショナルなKOマウスを作成するにあたり、DNAコンストラクトの構築に技術上の難しさがあった。少しアプローチを変えて、よりシンプルな方法で再度トライすることとし、実験を進めている。一方、当面の目標を、ディッシュ培養系においてSirius発現細胞と非発現細胞を共培養し、酸性条件下で酵素的に分散させる方法を見出すことに定め、目的に適う酵素カクテルの選定を進めてきた。今のところ、細胞をRNAが保たれる強酸性化におくと、タンパク質のカルボキシル基の電荷が失われて凝集するためか、細胞を剥がすことができない。ペプシンに加えて、さらにアミノ酸配列特異性の低いエンドペプチダーゼを見つけ出し、用いる必要がある。そこで、結合組織の細胞外基質の主成分となるコラーゲンI型やフィブロネクチンをアクリルアミドゲルに混ぜてゲル内消化するペプチダーゼアッセイ系を構築して、酵素の探索スクリーニングをすることとし、動物性結合組織を酸性条件下で消化して生きる生物を中心に探索を続けてきたが、残念ながらヒトペプシンを超える酵素はまだ見つかっていいない。なお、情報交換を兼ねて、乳腺・泌乳研究会に参加した。 総じて、職探しおよび所属機関の変更により研究環境が当初予定とは大きく変わったこともあり、研究はやや遅れてしまっている。
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今後の研究の推進方策 |
当面の目標を、ディッシュ培養系においてSirius発現細胞と非発現細胞を共培養し、酸性条件下で酵素的に細胞を分散させて、両細胞を蛍光を頼りに分離する方法を見出すことに定める。前年度に確立した酸性プロテアーゼのスクリーニング法を利用して、酸性環境下でコラーゲン様のタンパク質分解を行う生物資源を中心に探索を進め、目的に適う酵素の選定を進めていく予定である。これまでは動物性結合組織を酸性条件下で消化して生きる肉食哺乳類を中心に探索を続けてきたが、より広範な生物資源に目を向ける必要があろう。試料採取のための出張も予定する必要がある。 また、組織の種類によっては、既存の酸性プロテアーゼだけでも分散できる細胞があるかもしれない。いくつかの細胞種を使って哺乳類ペプシンによる細胞分散効果を試してみて、組織の種類を選ぶものの強酸性下で実現できる細胞分散法の確立を目指す道も探りたい。 一方、培養細胞での技術の確立を期待して、生体組織において細胞を分散する技術に結びつけるための準備を進める。遺伝子改変動物作成に向けたコンストラクトの作成に再度取り組み、生体の特定細胞にSirius融合タンパク質を発現させて、生体組織の中から特定細胞を固定・分散後に分取するための実験系の構築を目指す予定である。 なお、昨年度中の所属機関の変更により研究環境が大きく変わり、研究設備および研究に費やす時間など、当初の計画時とは異なってきてしまった。実験期間の延長を含めて、必要に応じて変更申請を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究統括と遂行を行う研究責任者が年度中に所属機関を変更したことに伴い、研究環境が大きく変わり、遺伝子組み換え、実験動物取り扱いなど各種研究手続きなどのほか、研究室のセットアップ、研究設備をもつ連携先との関係構築などに大幅に時間がとられてしまった。また、教育を主体とした本務の増加に伴い、研究に費やせる時間の確保が、当初の計画時とは異なってきてしまったことにより、予定したほど研究が進展しなかったため、予算消化が遅れている。今後、研究の進行に伴い当初の計画どおりの使途に有効利用される予定であるが、場合によっては研究の中断や研究期間の延長の必要性があろうと考えている。
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