乳腺組織を構成する多様な細胞の中で、これまで生化学的な解析に資さなかった希少細胞の動態を明らかにするための技術開発の一環として、細胞内のRNA分解酵素の活性を示しにくい酸性条件下で効率よく乳腺細胞を分散する方法を模索した。pH3以下ではRNA分解酵素活性が抑えられることが確かめられたことから、ペプシンなど低いpH条件で活性を示す酸性ペプチダーゼを用いて培養乳腺細胞をする分散できる条件を探ったが、細胞外基質の消化と細胞損壊の良いバランスを見いだすことができなかった。そこで、酵素の基質特異性の違いにより問題を解決できると考え、好酸性菌からの分泌性プロテアーゼの利用の道を探ったが、目的に適った酵素を見出すには至らなかった。一方で、細胞膜を構成するリン脂質のリン酸基のpKaは2~3程度であり、これを下回ると単位膜構造が崩れプロテアーゼが細胞内に漏入して細胞内タンパク質を分解してしまう可能性も示唆された。細胞分散の前に細胞構造が崩れてしまうと、個別の細胞のトランスクリプトーム解析などの下流の研究に支障をきたすため、研究の方向性自体を再考する必要があると判断される。研究途上のため、論文の発表などには至らなかった。 異動に伴う研究環境の変化を受けて、本年度の1年間研究期間の延長をしたが、残念ながら結果として研究の遂行が当初の目標通り進展せず、実質的に研究を実施して完了できる見込みが立たなかったため、研究を中断して研究資金の残額を返納することとした。
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