研究課題/領域番号 |
16K14766
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
兵藤 晋 東京大学, 大気海洋研究所, 准教授 (40222244)
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研究分担者 |
岡田 令子 静岡大学, 理学部, 講師 (50386554)
鈴木 雅一 静岡大学, 理学部, 教授 (60280913)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | プロラクチン / 軟骨魚類 / 両生類 / 進化 / 受容体 / 体液調節 |
研究実績の概要 |
我々は2015年にゾウギンザメの研究から、初めて軟骨魚類にもプロラクチン(PRL)が存在することを発見した。しかしながらゾウギンザメのゲノムからはプロラクチン受容体と考えられる遺伝子を発見できなかった。プロラクチンは真骨魚類において淡水適応に重要な役割を果たすことが知られているため、サメ類でほぼ唯一淡水環境にも適応できる広塩性種であるオオメジロザメに注目した。RNAseqを行った結果、脳下垂体からゾウギンザメと同様PRL1の発現が確認された。また、やはり脳下垂体のRNAseqからPRL受容体と考えられる遺伝子も発見された。PRL産生細胞は脳下垂体前葉端部に存在し、その数はゾウギンザメと比べて明らかに多かった。PRL受容体の発現は脳下垂体で最も高く、腎臓でも発現が検出された。成長ホルモンの受容体は別に存在したため、この受容体がPRL受容体である可能性は極めて高い。in situ hybridizationにより、脳下垂体でのPRL受容体の発現は、PRL産生細胞あるいはその近傍の細胞であることもわかった。真骨魚類のティラピアでもPRL細胞に受容体が発現し、自己分泌作用を持つことが近年報告された。オオメジロザメでも同様の作用を持つ可能性が考えられる。一方で、腎臓ではin situ hybridizationが成功しておらず、腎臓における作用は今後の課題である。また、予備的ではあるが、円口類にもプロラクチンが存在する可能性も見出している。両生類においては、魚類型と四肢動物型の2つのプロラクチンの存在を確認できた。これら2つのプロラクチン遺伝子が、幼生期から脳下垂体で発現していることもわかり、それぞれの発現部位と発現量の変化を現在調べているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
軟骨魚類に関しては、広塩性のオオメジロザメをモデルとすることで、軟骨魚類で初めてプロラクチン受容体を発見し、脳下垂体においてプロラクチンの自己分泌あるいは近傍に存在する細胞への傍分泌作用を持つことを見出すことができた。軟骨魚類の比較ゲノム解析によって、他の軟骨魚にもプロラクチンとその受容体が存在するであろうこともわかりつつある。また、予備的ではあるが、円口類にもプロラクチンが存在する可能性を見出しており、プロラクチンの起源と進化については当初の計画以上に進んでいる。一方で、プロラクチン受容体が腎臓でも発現しているが、その発現部位についてはまだ明らかにできていない。また、プロラクチンタンパク質生成についても進行中であり、機能解析という点では若干当初の計画よりも遅れている部分もある。それゆえ、全体としてはおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
プロラクチンタンパク質の生成、抗体の作製、ならびにノックアウト系統の作製を進める。また、28年度は軟骨魚類で希少な広塩性種であるオオメジロザメを用いることで、初めてプロラクチン受容体を発見できた。また、狭塩性のゾウギンザメと比較して、オオメジロザメの下垂体でのプロラクチン産生細胞は明らかに多かった。そこで、29年度にはさらに希少な淡水生軟骨魚類である淡水エイを対象に加えることで、真骨魚類でプロラクチンの最も重要な機能である淡水適応に、軟骨魚類のプロラクチンも関わるのかどうかを検討する。淡水エイを調べることによって、末梢器官でのプロラクチンの役割を明らかにできるのではないかと期待している。また、円口類に本当にプロラクチンが存在するのかどうかについても、引き続き検討を進め、プロラクチンの起源と多機能化の過程を明らかにしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
次世代シーケンサーによるRNAseq解析を行い、中間データを得たものの、開始できた時期が予定よりも遅かったために、最終データが得られておらず薬品類の支払が29年度にずれ込むこととなった。また、プロラクチン生成後の抗体作製を予定していたが、まだ抗体の作製に至っていないため。
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次年度使用額の使用計画 |
RNAseqについては29年度の早い時期に最終データが得られる予定であり、速やかに物品費として支出する。29年度には、抗体作製を行う予定。
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