真核細胞は、固有の機能を担う細胞小器官、即ちオルガネラを含み、これらは細胞分裂時に母細胞から娘細胞へと分配される。動物の幹細胞や出芽酵母は、非対称に分裂し、寿命の異なる二つの娘細胞に分かれる。近年、興味深いことに、オルガネラが非均質に分配されることが娘細胞間の差に寄与することが分かってきた。しかしながら、対称分裂を行う生物でも、オルガネラの非均質な分配が見られることが申請者らの実験で示唆されており、細胞の寿命や分裂について新しい問題が提起されている。本研究は、対称分裂で増殖する単細胞紅藻Cyanidioscyzon merolae(シゾン)をモデルに、真核生物の対称分裂におけるオルガネラ分配の質的な非対称性(非均質性)を明らかにすることを目的とした。 本研究課題では、特にタンパク質の合成されてからの時間(新旧)に着目し、ミトコンドリアとペルオキシソームについて解析した。オルガネラタンパク質の新旧を区別する種々のシステムを検討し、ヒートショックにより一過的にGFP融合ミトコンドリアタンパク質を発現させる系を構築した。ミトコンドリア分裂が開始する12時間前にこれらのタンパク質を一過的に発現させ、対になる娘ミトコンドリアにおけるGFPの輝度を比較した。有為な差は見られず、ミトコンドリアのタンパク質分配は均等(均質)であることが示唆された。しかしながら、本システムで検出できる新旧の差が、十分大きくなかった可能性もあり、さらなる検討が必要である。 ペルオキシソームについては、細胞が持つ本来のカタラーゼが一定の頻度で不均等分配されるのに対し、GFPを融合したカタラーゼは均等二分配されることが分かった。カタラーゼは結晶構造をとることが知られ、結晶構造が分配に影響する可能性や、GFPが結晶構造に影響する可能性がある。今後は本知見をもとに不均等分配のメカニズムが解明されると考えられる。
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