研究課題/領域番号 |
16K14771
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研究機関 | 宇部工業高等専門学校 |
研究代表者 |
島袋 勝弥 宇部工業高等専門学校, 物質工学科, 准教授 (70618446)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 電子顕微鏡 / イオン液体 |
研究実績の概要 |
平成28年度は、真空下で安定かつ蒸発しない、そして導電性を持つイオン液体の利点を活かし、希釈イオン液体を使用した、手軽で保存性の高い電子顕微鏡の前処理法の完成を目指した。電子顕微鏡技術の1つレプリカ法でイオン液体の応用を試みた。レプリカ法では試料を乾燥させ、表面に金属/炭素蒸着を行うことで、試料にコントラストを与える。 海洋性の極べん毛性細菌のべん毛をモデル試料に、イオン液体法におけるイオン液体の種類、濃度の最適化を行い、さらに従来法と試料の保存性を比較した。その結果、試料の保存性はイオン液体の種類で大きな違いはなく、濃度0.1-0.05%で処理したときに、べん毛の構造がきちんと露出した透過型電子顕微鏡が得られることが明らかになった。イオン液体濃度を0.1%以上にすると、乾燥時におけるイオン液体の残留が顕著になり、べん毛構造が隠れることがわかった。イオン液体法で処理したべん毛は、滑らかな正弦波の構造をとっている一方で、t-ブタノール乾燥法で得られたべん毛には細かい歪が見られ、保存性の点で、イオン液体法が勝っていることも判明した。このべん毛の歪みは前処理で使う有機溶媒が原因だと考えられ、有機溶媒を使用しないイオン液体法でより自然な状態に近い構造が観察できたと考えられる。 また平成28年度は、イオン液体を用いた無蒸着試料の観察条件の最適化も行なった。こちらでは、光合成細菌をモデルとして使用した結果、化学固定化した試料を2%のイオン液体で処理し観察することで、コントラストが良好な画像が得られることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度の目標の1つが、電子顕微鏡のレプリカ法にイオン液体を応用し、最適な条件を見つけることであった。その結果、細菌のべん毛をモデルに、0.05-0.1%イオン液体で処理した場合に良好なレプリカ像が得られることを確認できた。 また、導電性基盤とイオン液体を用いて、試料をシルエット状に観察する実験にも取り組み始めている。申請書で予定した通りのペースで研究が進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、予定通りに、導電性基盤とイオン液体を持ちいた生体試料のシルエット観察法に取り組む。特に、この方法で到達可能な分解能について検証する。 一方で、当初申請書にあげていた1細胞解剖法の実験は中止する。これは、化学固定化した試料をイオン液体処理し、それをFIB(収束イオンビーム装置)で加工し、細胞内部構造を観察する技術であるが、海外の複数のグループがこの技術の発展版であるクライヨFIBを既に報告しており、我々の方法の優位性が失われたと判断したからである。
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次年度使用額が生じた理由 |
申請時に購入予定していたスパッター装置を購入せずに、既存の真空蒸着装置で代用できたため物品費を抑えることができたため使用額を抑えることができた。
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次年度使用額の使用計画 |
差額は、電子顕微鏡関連の消耗品を購入する物品費、また電子顕微鏡の使用料に当てる予定である。
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