本研究は、イオン液体の真空中でも安定で蒸発しない性質を利用した画期的なイメージング技術の開発とその生命科学への応用を目指して、以下、3つのプロジェクトを進めた。具体的には、1) 走査型電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡のレプリカ作製のための「乾かさない」試料作製法の確立、2)導電性を持つ金属コート基盤を利用した、無蒸着生体試料の極めて簡便な走査型電子顕微鏡法、3) 収束イオンビーム装置を生物に応用し、レーザービーム加工により細胞を自在に整形し、その断面像から細胞内構造を明らかにする1細胞解剖学の研究を進めた。 3)は研究遂行中に海外の研究室から、クライオFIB法が報告されたため、我々の研究の優位性が薄れたと判断し、実験を中断した。しかし、化学固定しオスミウム酸で後固定した植物プランクトンの断面図をFIBで観察することには成功した。 1)、2)に関しては、当初の予定通り順調に成果が得られた。レプリカ作製のためには、生物試料を2%イオン液体で40℃、15分間処理することで、乾燥による試料の変形を防ぎ、電子顕微鏡の前処理応用できることを確かめた。2)については、当初目標にしていた細菌のべん毛観察に成功し、シルエット法が微生物の形態観察に有効であることが示せた。イオン液体の種類によらず、電子顕微鏡観察ができることも明らかになった。 この結果、イオン液体を用いた電子顕微鏡前処理法の確立にめどが立ち、今後、この方法の活用が広まることが期待できる。
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