研究課題
研究室で継代飼育しているアワヨトウには非選抜と黒色選抜の2系統がある。後者は、10年以上に渡って黒っぽい外皮を持つ幼虫を選抜して交配を重ねた系統で、同種とは思えぬほど、前者の白っぽい非選抜系統に比べ幼虫の体表が全体的に黒色である。最近、両系統は体表の色彩のみならず、ストレス抵抗性においても明らかな差があることが分かった。本研究の目標は、その分子メカニズムを解析することによって、昆虫のストレス抵抗性の差異を決定する主要因を明らかにすることである。まず、最初に、両系統終齢幼虫の高温ストレス抵抗性について詳細な比較調査を行なった。1時間の高温ストレス処理による半数致死温度は、非選抜と黒色選抜系統でそれぞれ43.9度、43.1度と非選抜系統が0.8度高かった。43.5度の高温ストレスにおける半数致時間は、非選抜と黒色選抜系統でそれぞれ1.7時間と1.2時間であった。これらの結果を踏まえ、両系統の終齢幼虫を43度、1.5時間の高温ストレスに暴露後2日目の生存率は、非選抜系統が約90%であったのに対し、黒色選抜系統は僅か40%と低い値であった。以上の結果は、やはり、黒色選抜系統では高温ストレスに対する抵抗性は非選抜系統に比べ低いことが明らかになった。両系統の高温ストレス耐性の違いがそれぞれの幼虫体内での活性酸素種(reactive oxygen species (ROA))濃度によるものと予想し、43度、1時間の高温ストレスを与えた後に体液を採血してROS濃度を測定した。その結果、非選抜系統幼虫体液においては高温ストレス前後でのROS濃度の変化は検出されなかったのに対し、黒色選抜系統幼虫体液では高温ストレス直後でストレス前の約2倍の上昇、その後も徐々に増加し続け、ストレス暴露2時間後には約3倍に達していることが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
まず、本研究においては、研究室で継代飼育するアワヨトウの非選抜と黒色選抜の2系統幼虫がストレス抵抗性において有意な差があることを証明した。すなわち、1時間の高温ストレス処理による半数致死温度は、非選抜と黒色選抜系統でそれぞれ43.1度、43.9度と非選抜系統が0.8度高く、43.5度の一定高温ストレスにおける半数致時間は、非選抜と黒色選抜系統でそれぞれ1.7時間と1.2時間と非選抜系統が長かった。これらの結果、やはり、黒色選抜系統では高温ストレスに対する抵抗性は非選抜系統に比べ有意に低いことが明らかになった。両系統の高温ストレス耐性の違いがそれぞれの幼虫体内での活性酸素種(reactive oxygen species (ROA))濃度によるものと予想し、43度、1時間の高温ストレスを与えた後に体液を採血してROS濃度を測定した。その結果、非選抜系統幼虫体液においては高温ストレス前後でROS濃度の変化は検出されなかったのに対し、黒色選抜系統幼虫体液では高温ストレス直後でストレス前の約2倍の上昇、その後も徐々に増加し続け、ストレス暴露2時間後には約3倍に達していることが明らかになった。以上の結果は、黒色選抜系統の高温ストレスに対する低い抵抗性が体内活性酸素種の高さに起因することを示唆するものと解釈できる。こうした体内の活性酸素種濃度の差異は、両系統幼虫体内の抗酸化活性の差によるものと予想し、現在、両者の体液中の抗酸化活性を測定中である。現時点では、高温ストレス処理前の幼虫体液中の抗酸化活性測定に止まっているが、この結果は予想に反するものであった。つまり、黒色選抜系統の方が非選抜系統よりもやや抗酸化活性が高い結果となった。今後、高温ストレス処理を施した後の活性変化を測定する予定である。
上述のように、両系統幼虫体内の抗酸化活性の差によるものと予想し、現在、両者の体液中の抗酸化活性を測定中である。現時点では、高温ストレス処理前の幼虫体液中の抗酸化活性測定に止まっており、予想に反して、黒色選抜系統の方が非選抜系統よりもやや抗酸化活性が高い結果が得られている。今後は、高温ストレス処理を施した後の抗酸化活性変化を測定すると共に、以下のような3種類の実験を遂行する。1)非選抜と黒色選抜系統の幼虫脂肪体における、高温ストレス処理前後での抗酸化酵素(superoxide dismutase (SOD), catalase)活性の測定を行う。2)非選抜と黒色選抜系統の幼虫脂肪体における、高温ストレス処理前後でのSODとcatalase遺伝子発現をRT-PCR, real-timePCRによって測定する。特に、SODについては、主として細胞質に存在するSOD1とミトコンドリアに局在するSOD2について、それぞれの発現が高温ストレスによって両系統でどのように変化するかを詳細に解析する。こうした解析によって、両系統の抗酸化酵素の遺伝子発現の差異とミトコンドリアの性質の違いについて何らかの情報が得られるものと期待できる。3)前年度の研究結果から、黒色選抜系統幼虫では、高温ストレス処理後、顕著に体液中の活性酸素種が増加傾向を示した。一方、非選抜系統では、こうした傾向は一切検出されず一定の濃度(ストレス処理前の濃度)に止まっていた。この事実は、ストレスによる個体死とこの体液中活性酸素種の濃度が密接に関係することを示すものと解釈できる。したがって、この体液中活性酸素種を分析し、できれば主要な活性酸素分子を特定し、構造決定とストレス-濃度-生存率相関を明らかにする。
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Plos One
巻: 11 ページ: 7
doi.org/10.1371/journal.pone.0160210