研究課題/領域番号 |
16K14779
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研究機関 | 国立遺伝学研究所 |
研究代表者 |
田辺 英幸 国立遺伝学研究所, 個体遺伝研究系, 特任研究員 (00623977)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 空間学習 / ゼブラフィッシュ / 海馬 |
研究実績の概要 |
空間学習の制御機構の研究は主に哺乳類の海馬を用いて進められてきた。その一方、海馬が他の脳領域の神経とどのような機能的な回路を形成して学習をなし得ているのかは良く分かっていない。私は小型魚類ゼブラフィッシュをモデル生物として、これを研究することとした。ゼブラフィッシュは成魚の脳のサイズが数mmであり、脳全体を検討するのに適している。また、順遺伝学的な方法に優れており、トランスポゾンの仕組みを応用して遺伝子トラップコンストラクトをゲノム上にランダムに挿入することで、特異的な神経細胞の可視化、または、その神経活動の阻害といった操作が可能である。こうした利点の一方で、ゼブラフィッシュの空間学習を検討する実験系は不十分であった。そこで、H28年度はその実験系の確立を試み、22cmx39cmのタンクの左右2か所ずつ(全4か所)に内寸 8cm x 8cmの部屋を中央部と連絡するように配置し、そのうち一か所にて、ゼブラフィッシュが入室した際に一定量のエサが与えられるように設計した。その結果、ゼブラフィッシュにエサ場所を記憶させることに成功した。H29年度は上記のトランスジェニックゼブラフィッシュを用いて、哺乳類の海馬と相同な魚類の領域(終脳背側外側領域)に存在する特異的な神経活動を阻害し、空間学習への影響を検討した。その結果、この魚の学習低下を明らかにした。また、それと並行して、学習により活性化される神経の同定も行った。pERKは活性化神経のマーカーとして用いられている。そこで、学習後と未学習のゼブラフィッシュについて、抗pERK抗体にて組織染色を行い、両者の神経活動に差がないか検討した。この検討は現在も継続中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
空間学習実験系のセットアップに予想以上の時間を要したが、現在、この実験系は確立している。この空間学習実験系を用いて、学習後の魚と未学習の魚との間でpERK陽性細胞の分布に違いがないか、特に、哺乳類の海馬と相同な領域と考えられている終脳背側外側領域に注目して検討している。この検討は脳組織を取り出した後、ビブラトームにてセクションを作成して行った。現在の課題は学習後の魚をサンプリングするタイミングで、学習行動が脳の神経を強く活性化しているタイミングを探している。この検討にも少し時間を要している。
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今後の研究の推進方策 |
これまで魚のサンプリングは、魚の学習をテストした後に行っていた。しかし、サンプリングが可能なタイミングは、魚にエサ場所を覚えさせている時など、複数ある。いくつかのタイムポイントにおいてサンプルを回収して、一番良いものを選びたい。 サンプリングのタイミングを決定した後、これをコントロール群(ホームタンク群)と比較して、学習によりどの領域の神経が活性化するのか検討する予定だ。また、空間学習の能力が低下していたトランスジェニックゼブラフィッシュについても、上記で決めたタイムポイントでサンプリングしてpERK染色を行い、神経活動が学習した魚とはどう異なるのか明らかにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
課題の進捗状況は少し遅れ気味である。そのため、予算の使用が滞ってしまった。H30年度の使用計画として、実験に必要な試薬の購入費、学会発表の準備(発表に使用するパソコンの購入)、及び、旅費等、発表の経費を予定している。
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