研究課題/領域番号 |
16K14786
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
三村 徹郎 神戸大学, 理学研究科, 教授 (20174120)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 共役輸送 / ナトリウムイオン / リン酸 / アオサ / シャジクモ / 膨圧調節 |
研究実績の概要 |
生体膜共役輸送系は、栄養の取り込みや老廃物の排出に働き、細胞存続の基盤となる輸送系である。H+共役型とNa+共役型が知られていて、植物と動物を区別する大きな要素である。我々は陸上植物の祖先種とされるシャジクモのリン酸輸送系はNa+共役型であることを報告し、細胞膜型リン酸輸送体遺伝子を単離し、それが高等植物の細胞膜リン酸輸送体全ての祖先型であることを見出した。本研究では、この共役輸送系の進化を明らかにするために、シャジクモ類のさらなる祖先種として、海水から汽水までの多様な環境で生育できる緑藻類の一つアオサ類の栄養塩輸送機構に着目し、遺伝子解析と膜輸送生理解析を組み合わせ、海藻の生体膜共役輸送系の分子基盤と進化を明らかにすることで、海水環境→淡水環境→陸上という、光合成生物の生態の進化を、生体膜共役輸送系という分子の言葉で記述することを目指した。 本年度は、実験材料Ulva compressa(ヒラアオノリ)が、Na+欠乏条件でも成長速度は落ちるが生育できることを見いだし、放射性リンを用いた取り込み実験から、必須栄養塩としてのリン酸の輸送には、H+共役型とNa+共役型であることを明らかにした。さらにアオサ属のリン酸輸送体の解析から、陸上植物の葉緑体包膜に存在する輸送体のホモログが、アオサでは細胞膜に存在する可能性を見いだし、その解析を進めている。 また、Na+欠乏条件の生育下において、これまで多くの植物で知られていた膨圧によるイオン調節機構とは異なる機構が存在することを見いだした。それがどのような機構かの解析も行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、リン酸輸送機構の進化を中心に解析を進めており、その目的については、生理レベルの解析、遺伝子レベルの解析について、当初の予定通りの研究が進んでいる。 さらに、その解析過程で、異なるNa+欠乏条件下で藻体を生育させた際に、細胞内Na+濃度の調節が細胞の膨圧とリンクしないことを見いだした。これは、これまで植物生理学の常識であった、細胞の膨圧変化が、細胞内のイオン調節のトリガーとなるということと大きく異なっているため、現在その現象の追試を進めている段階である。細胞内Na+濃度の調節過程は、Na+共役型イオン輸送機構の進化を探る研究目的そのものとも密接に関わることがらであり、現在、その解析をも視野に入れつつ研究を進めているところである。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究として、 1. アオサ類におけるリン酸輸送体遺伝子の推定:現在、アオサ類のRNA-seqを進めており、リン酸輸送体と想定される遺伝子が見つかった場合は、その配列構造をこれまでの系と比較することで、Na+共役輸送かH+共役輸送かを推定するとともに、酵母などの異種遺伝子発現系を用いて、実際の輸送能を明らかにする。 2.リン酸環境とNa+環境の認識:陸上植物は外部リン濃度に応じて、リン酸輸送体の遺伝子発現を調節することが知られている。我々の研究は、シャジクモでは遺伝子発現ではなく、リン環境に応じた翻訳後調節の存在の可能性を示唆した。陸上植物と藻類の間でリン環境の認識機構も異なるのか引き続き検討を進める。また、我々が既に進めた生理解析から、共役イオンであるNa+を外環境から除去するとリン酸輸送活性の誘導が、リン過剰時の方が高まることが判っている。これら共役イオンと輸送基質となるイオン関係の解析は、H+を共役イオンとする高等植物では、溶液pH が変わってしまうために全く不可能となることから、Na+を利用した本研究の中で、遺伝子発現にどのような調節が関わっているのかを検討する。 特にアオサでは、Na+環境の認識が膨圧調節そのものにリンクしている可能性が示唆されたことから、これまでいかなる植物においても明らかにされていない、Na+環境の認識機構の解析につなげられればと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
アオサの遺伝子発現解析や生理解析を進めているが、サンプル調製に時間が掛かったことなどから、一部研究費を次年度に回して、より効率よく使用することとした。
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次年度使用額の使用計画 |
アオサの遺伝子発現解析、イオン輸送過程の生理解析に使用する予定である。また一部は、国際共同研究における発表などに使用する予定である。
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