本研究は鳥類の中でも極めてユニークな“前後にずれた”嘴を持つオウム目に着目し、進化発生学的解析により、その特異な顔面形態を作り出す分子基盤の特定を目指すものであり、平成29年度はオカメインコ(オウム目)、ウズラ(キジ目)、アヒル(カモ目)の胚(いずれも胚発生ステージ26)の上下それぞれの嘴源基で発現する全ての遺伝子をハイスループットDNAシーケンサを用いたRNA-seqにより網羅的に特定し、その発現プロファイルを種間で比較することで、オカメインコの上下嘴間でのみ発現レベルに顕著に差がある遺伝子(DEG)を探索した。 研究最終年度である平成30年度は、前年度の解析の結果同定されたDEGのオカメインコ、ウズラ、アヒルの胚の顔面部における発現パターンについて、in situハイブリダイゼーション法を用いて調べ、パターンの種間比較を行った。DEGとして複数個の遺伝子が特定されたが、そのうち種間差がもっとも顕著であったランキング1位の遺伝子に注目し、発現解析を実施した。 胚発生ステージ26では、3種間の上嘴において本DEGの発現パターンに顕著な差は認められなかった。一方、下嘴では、オカメインコでのみその先端領域で発現が確認された。胚発生ステージ29の上嘴では、ウズラとアヒルに比べ、オカメインコでは本DEGの発現領域が相対的に狭かった。また下嘴では、ウズラ・アヒルに比べ、オカメインコでは(ステージ26に比べての)発現ドメインの顕著な拡大がみられた。以上の結果から、本DEGはオウム類の嘴において間葉の分化に対して抑制的に働くことで、下嘴の伸長を抑制している可能性が示唆された。
|