研究課題
真核細胞内において光合成を行う葉緑体は、シアノバクテリアの細胞内共生体に起源を持つ。藻類・植物の増殖は、葉緑体の光合成によって支えられているが、光合成は真核細胞にとって有害な活性酸素種を生み出す。最近我々は、真核細胞の概日時計により、光合成(葉緑体)と細胞周期進行(宿主)を時間分業することが細胞内共生関係の維持に重要であることを示した(宿主による共生体の制御;正方向)。さらに予備的な研究により、光合成及び呼吸活性が真核細胞の概日リズムを調整する(共生体による宿主への制約;逆方向)ことが示唆された。本研究では、単細胞真核藻類を用いてそのメカニズムを明らかにするとともに、このような逆方向の制御経路が任意共生、光合成生物の捕食においても存在するのか解析し、その進化と絶対共生成立に至る過程の関係を明らかにすることを目的としている。本年度は、単細胞真核藻類シアニディオシゾン用いて以下の結果を得た。非同調集団(光照射下)の光合成を阻害する、または非同調集団(暗黒下)に還元処理を行うことで概日リズムの同期がおこることが判明した。さらに時計タンパク質に結合し、光合成活性を細胞内時計に伝える可能性のあるタンパク質を同定した。当該タンパク質と時計タンパク質の結合を阻害すると概日リズムの同調に支障が出ることも判明した。さらに次年度計画している藻食アメーバを用いた研究のため、RNA-seqにより発現遺伝子群の配列情報を整備した。
2: おおむね順調に進展している
ほぼ計画通り、光合成による概日リズム調節が確かにおこることが確認された。さらに、時計タンパク質に結合し光合成活性により時計を制御する可能性のあるタンパク質候補を同定することに成功し、その分子メカニズム解明に迫る結果も得られている。
時計タンパク質に結合する新規同定タンパク質の機能解析を行い、光合成による概日リズム制御の分子実態を明らかにする。藻類捕食者及び、任意共生宿主にも光合成による、捕食者または宿主の概日リズム制御現象が存在するか調べる。
当初、多量の試料からのRNA抽出及びその定量RT-PCRを行う研究補助員の雇用を予定していたが、適当な人材を見つけることが出来なかった。そこで別の研究プロジェクトのために研究室に導入された自動RNA抽出装置を活用することにより、その不足を埋めることとなった。
次年度に計画している、多検体からのRNA抽出、逆転写、定量PCRのために予定される消耗品費として利用する予定である。
すべて 2017 2016
すべて 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件)