ヒトなどの哺乳類において骨細胞は骨を構成する主要な組織である。それぞれの骨細胞は骨の中で長い細胞突起を伸ばし、隣接する細胞同士でつながり合って神経細胞のように複雑なネットワーク構造を形成している。近年の研究から、この骨細胞ネットワークが重力や運動などの物理刺激を感知して、脳や肝臓など複数の臓器に情報を伝達していることが明らかになってきた。四肢動物の生存に不可欠な骨細胞であるが、興味深いことに多くの魚類は骨細胞を持っていない。魚類における骨細胞の獲得・喪失プロセスを探ることで、免疫や代謝にまでおよぶ骨細胞の新しい機能や役割が明らかになるかもしれない。そこで本研究では、魚類の骨細胞を網羅的に調べることで、骨細胞の獲得過程とその機能を明らかにすることを目的とした。 500種を超える魚類の骨細胞の保有パタンを解析したところ以下のことが明らかとなった。祖先形質は骨細胞を持っているタイプであり、魚類の様々な系統で二次的に骨細胞を失っていた。ポリプテルス目など古い系統で比較的発達した突起状の骨細胞を保有していたが、サケ目など新しい系統では樹状突起がなく単純な骨細胞であった。海水への依存度が高いほど骨細胞を失っている傾向があった。ただし、この傾向は弱く、骨細胞の有無は科ごとでかなり明瞭に分かれており、これまでのところ生息場所、生態などで上手く説明できる要因は特定できなかった。以上から、魚類の骨細胞は他の脊椎動物とは大きく異なる進化を遂げており、哺乳類のような多機能性は有していないと考えられる。今後魚類だけでなく、両生類、爬虫類、鳥類などの骨細胞を調べることで、骨細胞の意義や機能がより明確になると考えられる。
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