研究課題/領域番号 |
16K14798
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研究機関 | 独立行政法人国立科学博物館 |
研究代表者 |
國府方 吾郎 独立行政法人国立科学博物館, 植物研究部, 研究主幹 (40300686)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 隔離分布 / 古揚子江 / 中国大陸 / 中琉球 |
研究実績の概要 |
日本、中国、台湾に産するウツギ属(Deutziaアジサイ科)について、中琉球固有のオオシマウツギ(奄美群島)とその変種オキナワヒメウツギ(沖縄島)は、北琉球以北および南琉球固有のヤエヤマヒメウツギ(これまでオオシマウツギ・オキナワヒメウツギ最近縁種と考えられていた)よりも、中国産D. ningpoensisに近縁であることが分子系統解析によって判明した。ウツギ属の多く(少なくとも前記4種)は湿潤環境に生育するため、古揚子江を伝って、中国大陸から中琉球に進入したことが示唆された。 奄美大島固有種のヒロハタマミズキ(Ilex poneanthaモチノキ科)について、中国産種のI. macrocarpa)が最近縁種であり、本種が古揚子江を伝って中琉球に進入した可能性が分子系統解析によって示唆された。ただ、2種を同種とする見解もあり、分類再検討を並行して進める必要がある。 奄美大島固有種で渓流沿いに分布するヒメミヤマコナスビ(Lysimachia liukiuensis サクラソウ科)および同節東アジア産種について、本種は中国産種に近縁であったが、九州の固有種ヘツカコナスビとも近縁であったことが分子系統解析によって示された。これらは多分岐の系統群であり、今後、他配列領域を加えて、より詳細に系統関係を調べる必要がある。 男女群島の新種ダンジョマンネングサ(ベンケイソウ科)の最近縁種は中国固有種のS. tetractinumであることが示された。現在の分布からこれらが古揚子江を伝ったとは考えにくいが、古黄河を伝って同様なプロセスで日本に進入した可能性がある。 今後、中琉球と中国大陸で隔離分布が認められた種および種群について、他中国産種等を追加して更に多くの他配列領域を用いた分子系統解析を行い、詳細な系統関係の解明、分岐年代の推定、生態ニッチモデリングなどを行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初(計画調書)に予定していた①~⑤の項目に従って下記する。 ①研究組織における確認とその強化: 本研究課題の交付後、連携研究者の横田昌嗣氏 (琉球大学)と中村剛氏 (北海道大学)とメールを介して計画の詳細に関する打ち合わせを行った。また、6月と3月には国立科学博物館において会議を行った。また、国外研究協力者の傅承新氏 (浙江大学)、葛頌氏 (中国科学院、北京)および鍾國芳氏(臺灣中央研究院)とはメールを介して計画の詳細に関する打ち合わせを行った。これらをもとに、それぞれが役割分担・協力する範囲などを確認した。 ②対象種の選定: 前記「研究実績の概要」の通り、種あるいは種群レベルで隔離分布を示すことより、古揚子江を伝って中国大陸から中琉球に進入したと示唆される次の分類群を見出すことが出来た。オオシマウツギ・オキナワヒメウツギ(中琉球) vs Deutzia ningpoensis(中国大陸); ヒロハタマミズキ(中琉球)vs Ilex macrocarpa(中国大陸); ヒメミヤマコナスビ(中琉球)vs ―Lysimachia paridiformis(中国大陸). ③対象地域: 研究代表者、連携研究者・国外研究協力者が相談し、重点的に対象とする次の地域を選定・確認した。 日本:中琉球(奄美大島・徳之島・沖縄島・久米島)・九州南部; 中国:浙江省・山東省・広東省・福建省; 台湾(中琉球と中国大陸の間の各植物の近縁性を相対的に評価するために必要) ④サンプル収集:4月に沖縄島、5月に徳之島、6月に鹿児島・中国浙江省、8月に沖縄島、9月に沖縄島(日本植物学会参加を含む)、11月に沖縄島、1月に奄美大島、3月に沖縄島においてそれぞれサンプルの収集を行った。 ⑤DNAデータを用いた系統解析:解析によって「研究実績の概要」に記した本研究課題の基盤データを蓄積した。
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今後の研究の推進方策 |
前記の「研究実績の概要」に示された中琉球と中国大陸で隔離分布が認められる種・種群について、中国・台湾産などのサンプリングを行い、より網羅的な解析が行えるようにする。また、核 DNA のITS領域・シングルコピー遺伝子、葉緑体 DNAの複数領域を用い、系統地理的パタン(ハプロタイプネットワーク解析、ベイズ系統解析、GST-NST 比較など)を解析し、古揚子江を伝った中琉球へ直接的な進入が過去に起こったことを検証する。さらに、最近縁性が実証された種群・種において、化石データによるキャリブレーションを用いたベイズ推定によって種間・集団間の分岐年代を算出し、その進入時期、地史的要因などを考察し、中琉球への進入とその後の分布変遷の詳細を明らかにするために、集団間の移住率のベイズ推定、過去の集団サイズ変動(Tajima’s DやFu's Fsの指標; Bayesian Skyline Plot解析等)、地理的分布拡大タイミング(ミスマッチ分布解析等)の推定を行う。加えて、最終氷期の最寒冷・乾燥期の種の分布を推定し、中琉球と中国大陸で最近縁性が認められた種群・種にとって揚子江流域がその当時から現在まで安定した分布域であったことを検証する。中国大陸に最近縁な種・集団が認められた中琉球の植物にとって、九州・北琉球、台湾・南琉球がその当時から現在まで絶滅するような環境ではなかったことが示されれば、陸橋を伝った進入後、分布縮小によって中琉球に遺存的に残った可能性が低いことが支持される。 以上を踏まえて、「古揚子江流域は湿潤環境に生育する植物の中国大陸から中琉球への主要な進入経路であった」という仮説に対する検証を進める。また、研究成果を、順次、国内外の関連雑誌および学会などで誌上発表・口頭発表する。特に29年度に中国広東省で開催される国際植物科学会議 XIXでは本研究に関連するセッションを設ける。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年2月に連携研究者とともに実施する予定であった台湾におけるフィールドワークが、台湾の主カウンターパートである鍾國芳氏(臺灣中央研究院)の都合で実施できなかったため、その分の旅費が執行できなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年6月、鍾國芳氏の協力のもとで、連携研究者とともに台湾におけるフィールドワークを実施する計画である。
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備考 |
琉球列島に生きる植物を一般社会に紹介するために作成されたWebサイトe。 構成は次の通りである:「琉球の植物区系と自然」、「琉球の植物はなぜ豊富?」、「琉球を彩る植物たち」、「植物とひとー生物資源としての植物」。
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